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アジアの政治と民主主義 の商品レビュー

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2012/10/05

アジアの様々な国家におけるガバナンス、つまり政治権力のあり方を、ギャラップ調査などに基づいた「国民の主観的意見」から調査しようという試みをまとめたものである。対象国は幅広く、アジアにおける主要な国はほとんど本書に含まれている。 そもそも、ガバナンスという概念は不明瞭である。簡単...

アジアの様々な国家におけるガバナンス、つまり政治権力のあり方を、ギャラップ調査などに基づいた「国民の主観的意見」から調査しようという試みをまとめたものである。対象国は幅広く、アジアにおける主要な国はほとんど本書に含まれている。 そもそも、ガバナンスという概念は不明瞭である。簡単に言えば政府が民主主義的な政治制度を備えているか否かを問題とするが、そもそも民主主義とは何かという議論から始めねばならない。それに対する考えは国ごとに違っているからである。例えば、シンガポールのリー・クアン・ユーは「アジア的価値」という言葉を持ち出し、「アジアには儒教的・家族的な考えを中心とする価値が存在する」と主張した上で、欧米が支持する民主主義ではなく「アジアにおける民主主義の形」を提供したのであった。このように、一言で民主主義と言ってもさまざまな形があるが故に、一概にそれを定義付けすることは出来ないのである。 そのような問題を解決する可能性があるのは、ある国における国民が、その国の政府をどのように考えているかを調査し、それを分析することであった。質問表の不備などから発生するバイアスにさえ気をつければ、これは国家のガバナンスを分析するうえでの有用な武器になろう。この点で、本書の取り組みは先駆的なものであると評価できる。 このように、国民の主観から政府に対する価値観を抽出する作業において、伝統的な政治社会学の立場を引用することは避けられない。彼らの立場とは、「ある国における政治とは、その国の文化によって支えられており、このような価値観は時代が変遷しても変化することはない」ということであった。もし仮にこれが正しければ、ギャラップ調査などによる国民の価値観の抽出は、どの時代においても変わらないということになる。しかしながら、本書の中国を分析した章が指摘するように、社会主義からの市場経済化など、国内に大きなインパクトを与えた現象によって、国民の価値観は変化するのである。 上記の通り、本書はこの分野の取り組みにおいては先駆的だが、一定の批判も可能である。例えば、国民の価値観を抽出する際のバイアスである。それは主観的なものであるが故にバイアスには細心の注意を払う必要があるし、そもそも権威主義体制が敷かれている国においては自由に国民の価値を表明できないこともある。読み手はこれらの点に注意する必要があるだろう。

Posted byブクログ