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「健常」であることを見つめる の商品レビュー

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2010/03/05

こないだ『季刊 福祉労働』の、情報保障・コミュニケーション支援の特集号を借りてきたときに、この本が紹介されていて、借りてきてみた。 もとは論文としてまとめたものを本にしたらしく、あれこれの先行研究を概説してこの研究の意義がどうのと述べたところや調査の方法の説明を書いた部分は、一...

こないだ『季刊 福祉労働』の、情報保障・コミュニケーション支援の特集号を借りてきたときに、この本が紹介されていて、借りてきてみた。 もとは論文としてまとめたものを本にしたらしく、あれこれの先行研究を概説してこの研究の意義がどうのと述べたところや調査の方法の説明を書いた部分は、一般向けにはちょっと読みにくいなと思ったが、問題意識として冒頭に書かれた「忘れられない経験」に興味をひかれ、グループゴリラにも興味があったので、そのまま読んでみた。 忘れられない経験とは、「同年代の健常者と比べ、様々な社会経験が乏しかったり、人間関係の形成に困難を抱えている障害者」が抱える課題に対して、「これからの生活に必要な技術やノウハウを、すでに自立生活を実践している先輩障害者が伝え、援助していく」という、自立生活プログラムに、著者の山下が介助スタッフとして関わったときのこと。 その日、山下は、初めて単独で電車に乗るという女性のサポート役として、といっても、黒子として遠くから見守る役として、脳性マヒで、言語障害ありの車椅子使用者とともに、電車に乗った。そこでハプニングが起こった。 目的地ではない駅で、何かの勘違いか、駅員がその女性を降ろしてしまった。山下が気づいたときには、その車椅子の女性をホームに残したまま、電車は発車。 このとき山下は「何かあったらどうしよう」「親やセンターのスタッフにどのように謝ればよいのだろう」と思い、すぐ次の駅で電車を乗り換えて戻り、彼女を探し回ったという。 その女性は、文字盤をつかって駅員とコミュニケーションをとり、駅の案内表示を見て、ちゃんと目的地に着いていた。 山下はそうは思わず、右往左往して、やっと彼女と合流できたときには本当に安堵したという。その帰りに、山下は気づく。 ▼彼女とはぐれてしまった時、私は彼女の「冒険」を直視することができなかったということだ。そして彼女自身にではなく、その保護者にどう謝ろうかと考えていた。そのような態度こそが最も障害者の自由を束縛するものであると理解していたはずだったのに、そうした態度を私自身が無意識のうちにとっていたのである。(p.14) 「障害者の主体性を尊重し、その介助をする」とはどういうことか、これが山下の問いの出発点。障害者と介助者たる健常者(健全者)の関係性を探るため、1970年代関西の障害当事者/健全者運動をとりあげている。その対象は、主として脳性マヒ者の団体・青い芝と自立障害者集団友人組織・グループゴリラである。 名前だけは知っていたグループゴリラ(ぐるうぷごりら、という表記も見たことがある)。巻末の資料の中に、ゴリラの紹介パンフレットが収録されている。 その「2.にんげん集団─ゴリラを構成する網」に〈勤労者ゴリラVS学生ゴリラ〉の次に、〈女ゴリラ、その他〉という項がある。私が知っている(たぶん)元ゴリラの人が男性だからか、なんとなく男性の集団のように思っていた。あ、女性もいた集団なのかと初めて気づいた。 〈女ゴリラ、その他〉  どうも、女はダメになる。数の上では男より多いけれども、ゴリラに参加してやってるうちに、活動に負けて行っちゃう。そのあたりのことと、いわゆる女性差別のことで、女ゴリラ独自の会議と行動が持たれています。ええかっこすれば、今言えるのは、「女の差別がある、女の闘いがある。かと言って、障害者の眼の前から消えたり、ゴリラの運動にソッポを向いたら、結局わたしたち女がダメになる。あくまでも障害者差別を許さない運動の中で、女の問題、女差別の問題をじっくりと闘って行きたい」というところです。…(p.210) 青い芝の「障害者と健全者の大交流キャンプ」に、私は80年代の終わりから15年くらい毎年参加していた。だんだんと実施が難しくなって、私がずっと行ってたキャンプは数年前に消えてしまったが、私が参加しはじめた最初のうちは、キャンプに行く前に必ず、この本にも出てくる「在宅訪問」をしていた。キャンプに来ていた中には「自立障害者」も数人いたけれど、ほとんどの「障害者」は親元で暮らしていた。だんだん介護者探しが難しくなり、当日来られるだけの人も増え、「在宅訪問」もなくなっていった。 そんなことをぼんやり思い出したりしながら、読んだ。

Posted byブクログ