容赦なき牙 の商品レビュー
最近パーカーが書いているウエスタン小説との最短距離にいるシリーズは、ジェッシイ・ストーンの本シリーズだろう。スペンサー・シリーズとの相似点を常に感じながら、やはり、事件に対する捜査官としてよりも、ガンマンとしての空気を身に纏っているのがジェッシイという名のパラダイス署警察署長で...
最近パーカーが書いているウエスタン小説との最短距離にいるシリーズは、ジェッシイ・ストーンの本シリーズだろう。スペンサー・シリーズとの相似点を常に感じながら、やはり、事件に対する捜査官としてよりも、ガンマンとしての空気を身に纏っているのがジェッシイという名のパラダイス署警察署長であるのだ。寡黙性、マッチョそうしたものが伺わせる気配のようなものも含めて、すべて。 そんなジェッシイですら、カウンセリングを受けているのだから、根本的に情け容赦のないウエスタンとはやはり根本的に時代が違う、ということか。悩みの大部分が、離婚した妻への断ち難い思慕である。サニー・ランドルと分かれた理由もそうであったし、他の女性とのアバンチュールをそれ以上に発展させない理由もやはりそのことである。 一方で、別れた妻ジェンを見るときにジェッシイは、どきどきしてしまう。それほどぞっこんな状態なのである。スペンサーがスーザンに対し無常の愛を感じ取るシーンとは、ほとんどそっくりと言っていい。タフな大の男が二人、揃いも揃ってめろめろになる女たちとは、一体? 本書ではアフター・サニー・ランドルの物語として、とりわけジェンとの心理的な駆け引き、または孤独な葛藤が、カウンセリングを通して、ある種の回答に至ろうとするまでのサブ・ストーリーが描かれて顕著である。 一方で、メインのストーリーの方は、かつてこのシリーズで最も活劇性の豊かだった作品『忍び寄る牙』で鮮やかな印象を残したクロウをスペシャル・ゲスト・スターとして迎える。あれほどジェッシイらと全面対決をやらかした犯罪者の側がどうしてパラダイスのような小さな町に戻ってくることができるのだろう。 逃げた犯罪者は時効だと嘯き、警察署にジェッシイを訪ねてくる。フロリダの犯罪組織を束ねるルイスから依頼された娘探しの用件だ。全面的に狂ったようなストーリー展開なのである。 ルイスの娘、アンバーという少女はいかれている。その母は酒で壊れかけている。母は射殺される。地元のチンピラ。アンバーは母殺しに協力している。父は母殺しを命じ、娘を連れ帰るようチンピラに命じる。クロウは、自律した判断ですべてを決める。ジェッシイとの協力体制が成立する。アンバーの奔放。チンピラの暴走。やってきたルイスの酷薄。 全編を狂った冷血が漲る中、ジェッシイとクロウが何とクリーンな人間に見えることか。ジェッシイはまだいい。殺人者であるクロウまでが純潔に見えるところが、本書の不思議な面白さであり、作者の狙いである。 思えば、この作者は沢山の殺し屋を、主人公の協力者として登場させる。スペンサーのシリーズでも然り。ホーク、ヴィニー、チョヨたち。サニーのシリーズでは暗黒街の鬼のような叔父フェリックスを協力者として登場させる。腐ったものに腐ったものをぶつける、といった構図ではない。殺し屋たちは利用される武器のように淡々と存在する。 クロウは、そこへゆくと健全である。『忍び寄る牙』のときは人質の女たちを解放する。本書では、ルイスからの命令に背き、自己の規範を優先するとともに、誘発される対決を嬉々として待ち受ける。戦場に身を置きたがる。極度な刺激を求める。比較的健全でありながら、やはり病んでいる。 人間味を捨てた連中と闘える喜びに身を投じるクロウ。事件の捜査よりもジェンとの距離のとり方の方に夢中になっているジェッシイ。いつもよりずっといびつな展開であるように見える。誰もが少しずつ病んでいる。悪党たちはもっとずっと病んでいる。でも最も重病と思われるのが、魂の壊れた少女アンバーであるように映る。悪玉から救い出しても、完全に救い出すことができそうもない精神のプリズナー。 時代性という言葉だけでは納得のできない苦味が舌先に残る一編だ。
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ジェッシイ・ストーン・シリーズ第7作。二作目「忍び寄る牙」の敵役、クロウが再登場。おいしいところを一人でかっさらっていく感じです。主役がすっかりかすんでいる・・・。
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