悪魔とキスをする前に の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
好きな映画に、ウォン・カーウァイの「ブエノスアイレス」がある。物書き仲間の男友達に「一人じゃいけないから一緒に行ってくれ」と頼まれて観に行ったゲイが主人公の映画だった。 決して、楽しい映画ではない。やり切れなさで胸が詰まる映画だが、好きな映画で五本の指に入る。 この漫画には、あの映画に似た雰囲気を感じた。 著作の「喪服のディナーパーティー」でも思ったが、この作者の漫画には映画と同じ空気が流れている様だ。 読後はBLの長編漫画を読んだというよりは、長い映画を観て映画館から出てきた気分に似ている。暫く、余韻でぼーっとしていた。 話の主軸はカイと理人だが、この二人の固い結びつき云々という話でもない。 カイはふらふらしていて、性別問わず色々な人と関係を持つ。何度も理人の前から姿を消す。 ふと、飼い猫同然だと思っていた野良猫を思い出した。 姿を消しても、また自分の所に戻ってくるだろうと待つあの感覚。カイと理人の関係はそれに近い気がする。 「どうして落ち着いてくれないのだろう」と平穏な暮らしを送ってくれない二人に苛立ちすら覚える。 結果的に、二人は結ばれはしたのかもしれない。 でも、「二人はいつまでも幸福に暮らしましたとさ」というおとぎ話は実現されなかった。 お互い、両思いだったと見える形で分かっただけ救いがあったのかもしれないが。 思い切り泣けるようなドラマチックなシーンはない。 ただ淡々と、やり切れなさが積もっていく。 カイは今、何処にいるのだろうか。 彼岸か、タイの安宿なのか。 もしかしたら、またふらりと野良猫のように戻ってくるかもしれないと、ありえない微かな期待を抱いて、本を閉じた。
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