書斎の死体 の商品レビュー
※再読後、新装版と共有 クリスティの長編ミステリー。マープルシリーズ。 書斎で死体が見つかるというミステリーありがちの設定であるが、クリスティにかかれば読者を惑わせ、迷走させる絶好の舞台装置になる。 導入から読者へ謎を提起し、全く面識の無い屋敷で発見されたブロンドの若い女性の...
※再読後、新装版と共有 クリスティの長編ミステリー。マープルシリーズ。 書斎で死体が見つかるというミステリーありがちの設定であるが、クリスティにかかれば読者を惑わせ、迷走させる絶好の舞台装置になる。 導入から読者へ謎を提起し、全く面識の無い屋敷で発見されたブロンドの若い女性の死体。彼女が誰で、なぜこの屋敷で殺害されていたのか、が提示されて、その後、彼女だと思われる失踪者が踊り子として働いていたホテル、そこに滞在する大富豪、そして死体が発見された屋敷の近くに住む若い胡散臭い男と女と登場人物が出揃う。 物語が進行していく中で、村の石切場から若い女性の焼死体が発見され、更に事件は混迷を極める。 マープルは死体が発見されたやかたの夫人の友人であり、夫人から謎を解くための協力を要請される(昔の人にとっては他人の死は一種のスリルであり娯楽だ。)ヘンリー卿もホテル滞在中の金持ちから依頼があり、引退した身でありながら彼に協力する。 何より、作中の登場人物達がマープルの知り合いであり彼女に協力してくれる人達だ。現代ミステリーでは警察は素人には協力しない、情報は話せないの一点張りでヤキモキする事が多いが、この時代には捜査上のモラルは存在するが案外協力的であり、スムーズに進行していく事が多い。 警察では突き止められない真実もマープルと協力する事で得る事もあり(女学生の扱いは流石だ。というより、警察が鈍感なのか。) クリスティの作品において、悲劇的な被害者は沢山いるが今作の被害者達はとても不幸であり不憫な人達だ。犯人について、動機の部分はあくまで統一されており、犯人は必ず殺人によって利益がもたらされる、若しくは愛憎によるものであり、突飛な理由(現代のサイコパス的な理由)は少ない(全く無いわけでは無い)。今回も例に漏れずなのだが全くコンセプトに古臭さを感じないのは流石だ。
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探偵小説でよくある場面“書斎の死体”が、普段と変わらぬある朝、バントリー邸の書斎で発見された。死体はバントリー邸では誰も見知らぬ金髪の美女。小説の作りごとのような出来事に戸惑うバントリー夫人は、親友のミス・マープルに相談。発見された遺体の身元が昨晩から行方不明になっているマジェスティックホテルのダンサーらしいことが判明すると、マープルとバントリー夫人は早速ホテルへ向かい調査を開始するのだが、果たして真相は…。1作目『牧師館の死体』以降、些細な村の出来事を大きな事件に関連させて、事件解決に光を与える才能の持ち主としてちょっとした名声を馳せている(らしい)ミス・マープル。マープルもの2作目である本作品でも『牧師館の死体』で登場した人物として警察のメルチェット本部長、スラック警部、牧師夫人のグリゼルダ(赤ん坊が生まれてる!)などの姿も見られる。その他、この後の作品にたびたび名前が出てくる元警視総監のヘンリー卿も富豪の友人として登場。今回の捜査の中心となるホテルには、殺されたダンサーを気に入り莫大な遺産を残そうとしていた富豪やその家族、ダンサー仲間が宿泊し、彼らの周辺の動きを掴むことが事件の経緯を押さえる初期ポイントなのだが、人の出入りが多くてちょっと複雑。と、彼らの動きや動機に注目させておいて、実は「確か」と思われていたことに落とし穴が作られていた、という筋書きが上手い。設定は一見地味だが、ストーリー展開、話運びの妙技がなかなか冴えている。【以下ネタバレ含むため未読の方はご注意】第一の遺体の身元確認にそんな落とし穴があったとは気づかなかったが、言われてみればなるほど確かにそうだった。そこを疑えれば、誰が(誰と共謀して)犯行を行ったかわかってくる。すべて最悪の事態を想定し、人(の発言)を頭から信じない非常に猜疑心の強いマープルならではの着眼点で、感じた違和感…着古したドレス、短く切られた爪…などから様々な可能性が浮かんでくるのだ。犯人達の分刻みで複雑な筋書き、さらに遺体を放り込まれ罪を着せられそうになった人物の意外なとっさの対処によって、事件が更に複雑になってしまったのだから、全体のタイムスケジュールが欲しいくらいだ。警察の得意とする科学捜査や物的証拠による犯人検挙が難しい素人探偵が犯人を追いつめる手としては、こうしたちょっと芝居がかった演出が必要。今回も犯人はマープルの仕掛けた最後の罠(演出)に引っかかり、御用となるのだった。ところで個人的に好きな場面は、書斎の死体が発見される前の、短い部分。お屋敷付きのメイドがお盆に載せたお茶の道具を運んできて朝のお茶を知らせてくれる音を聞きながら朝のまどろみの中で目覚める、というところ(実際にはこの日ばかりはイレギュラーな事件のためにそうはならないのだが)。いかにも上流階級の奥様の優雅な暮らしっぷりが感じられて、こんな朝の迎え方もいいなぁと想像するのも楽しい。まぁ、実際自分がこの時代に生まれてたら、奥様側ではなくてお茶を運ぶメイドがせいぜいだろうけど^^;(2010.5.2.再読&感想登録)
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