爬虫類館の殺人 の商品レビュー
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本作の密室トリック―窓も扉も目張りされ、鍵が掛けられた部屋からいかに犯人は脱出したのか―の真相は解ってしまった。最初は解らなかったものの、トリックを特定するある物(真空掃除機)が出て来た時点で、閃いた。というよりも多分小さい頃に読んでいた藤原宰太郎氏の推理トリッククイズに問題の1つとして挙げられていた可能性が高い(ホント、この本の犯した罪は重いと思う)。 本格推理小説は手品・奇術と相通ずる物がある、というのは泡坂妻夫氏の持論だが、カーもこの作品で奇術におけるミスリードを一つの要素として扱っており、カー自身もその思いを強くしていたように思える(良きライバルであるクレイトン・ロースンその人が奇術師であり、競作を行っていたから、これは今更ながら述べる事でもないのだが)。 本作はこのトリックがメインであり、その他については物語を形成する装飾品に過ぎない。特にそれが顕著に見られるのは最後の犯人告発シーン。密室の解明に力が入っている割には、犯人を特定すべき証拠が挙がらず、脅迫じみた形で自白を迫るといった滑稽さである。 まあ、そのシーンも犯人が憎らしいがために、読者の溜飲を下げる効果もあるのだが、幾分泥臭い。 しかし真相の解明のヒントとなる戸棚とマッチの燃え滓の2つはどうも読者へのヒントになっていないように思える。私自身、トリックの真相に確信を持っていたのだが、違うのかなと思ってしまった。その説明も本作では十分になされていない。 しかし、犯人は予想とは違った。いやあ、やっぱりカー作品は犯人を当てるのは難しいわ。あまりに情報が少なすぎる。てっきり叔父のホーリスだと思っていたのだが。 さて今回の原題だが“He Wouldn’t Kill Patience”であり、作中の台詞を借りると「彼がペイシェンスを殺すはずがない」となる。これは事件が自殺でなく他殺である根拠として娘のルイズが述べる台詞で、ペイシェンスはお気に入りの蛇の名前である。手元の辞書では何か別の意味があるのか解らなかったが、私は邦題よりもこちらの方が魅力を感じる。 事件は園長の家で起きており、爬虫類館ではないので邦題の『爬虫類館の殺人』は実は正確さを欠いている。しかも原題には未読の人にはその意味について興味をそそられ、本を読んでこそ解る意味になっているからだ。この題名は改訳の折には変更してもらいたいと強く思った。
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探偵ヘンリーメリヴェール卿の魅力が詰まった一冊。冒頭から爬虫類館での冒頭のドタバタの様子は面白く、そこから流れるように密室殺人事件が発生。1940年代の作品ということで、戦時体制下で空爆をうけているため、作品の中でも灯りが漏れないよう灯火管制が敷かれているのが特徴的。トリックや犯...
探偵ヘンリーメリヴェール卿の魅力が詰まった一冊。冒頭から爬虫類館での冒頭のドタバタの様子は面白く、そこから流れるように密室殺人事件が発生。1940年代の作品ということで、戦時体制下で空爆をうけているため、作品の中でも灯りが漏れないよう灯火管制が敷かれているのが特徴的。トリックや犯人が誰かというよりも、メリヴェール卿の犯人への仕返しが痛快なストーリーでした。
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ヘンリ・メルヴィル卿シリーズ。第二次世界大戦下のロンドンを舞台に繰り広げられるミステリ。なんとなくタイトルからはおどろおどろしたものを想像したのですが、案外とスラップスティック調で明るい物語といった印象。ケアリとマッジのあまり甘くない(笑)ロマンス物語も読みどころでしょうか。 こ...
ヘンリ・メルヴィル卿シリーズ。第二次世界大戦下のロンドンを舞台に繰り広げられるミステリ。なんとなくタイトルからはおどろおどろしたものを想像したのですが、案外とスラップスティック調で明るい物語といった印象。ケアリとマッジのあまり甘くない(笑)ロマンス物語も読みどころでしょうか。 この密室トリックはあれですね、他でもいろいろ見かけた気がするのですが。そのための伏線が綿密だったので、早々に見当はついたものの充分に楽しめました。そうか、この時代設定もこのためのものだったのか!
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強烈なH・M卿を堪能できる ファン垂涎ものの作品。 特に彼の本領は最後の犯人を追い詰めるときに フルに発揮されます。 まあそのせいで犯行よりも H・M卿になってしまうのは 否めないのですが… 犯人は推理が割と容易な部類に 入ります。 せいぜい迷うのは二人程度です。 でもここで...
強烈なH・M卿を堪能できる ファン垂涎ものの作品。 特に彼の本領は最後の犯人を追い詰めるときに フルに発揮されます。 まあそのせいで犯行よりも H・M卿になってしまうのは 否めないのですが… 犯人は推理が割と容易な部類に 入ります。 せいぜい迷うのは二人程度です。 でもここで素直に引き下がらないのが犯人。 なんとH・M卿に噛み付いてくるんです。 まあその結末は予想通り。 バンコラン張りですな。 残酷面むき出しでありました。
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H・Mシリーズ 爬虫類館での出会い。対立マジシャン一家の息子ケアリ・クイントと娘マッジ・パリサー会談。飼育員との喧嘩。逃げ出した大トカゲ。H・Mの逃走。自宅で殺害された動物園の園長ネッド・ペントン。がむrで目張りされた部屋の名でのガス中毒。ペントンが購入しようとしていた蛇。蛇の売人のアグネス・ノーブル。犯人に狙われるマッジ。キングコブラ対H・M。事件直前にヘンリー卿達が聞いた真空掃除機の音と事件の関係。 2002年4月5日読了
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原題は、『彼が蛇を殺すはずはない』――すべての推理はここから始まっている。目張り密室にする必然性があったのかは甚だ疑問だが、それでも作者は完全なる密室に真正面から勝負を挑んでいる。正々堂々と、そしてくそ真面目に。密室トリックのあるべき姿というのは、本来こういうものではなかったのか...
原題は、『彼が蛇を殺すはずはない』――すべての推理はここから始まっている。目張り密室にする必然性があったのかは甚だ疑問だが、それでも作者は完全なる密室に真正面から勝負を挑んでいる。正々堂々と、そしてくそ真面目に。密室トリックのあるべき姿というのは、本来こういうものではなかったのか、と考えさせられる部分がなくもない。そしてもうひとつの良さは、H.M卿の魅力が存分に味わえる点。苦手な蛇に囲まれ辛辣な口調でいつもの皮肉をわめいているが、照れ屋で優しい素顔が垣間見えるのもファンにとっては嬉しいところ。ラストは、恥ずかしくなるくらいキレイにまとめすぎた感もあるが、事件と並行してもうひとつのストーリーも進行しているから、それはそれで納得することにする。そのストーリーも放置することなく拾い上げて、推理の重要な部分を任せているのはさすがだと思った。
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