矢の家 の商品レビュー
ミステリ黄金期にはミステリプロパー以外の作家もミステリを発表する動きがあったことは以前述べたが、このメースンもその中の1人。 元々は彼は劇作家であり、そちらの方の分野の小説は現代でも高い評価を受けており、21世紀になって彼の書いた“Four Feathers”が『サハラに舞う羽根...
ミステリ黄金期にはミステリプロパー以外の作家もミステリを発表する動きがあったことは以前述べたが、このメースンもその中の1人。 元々は彼は劇作家であり、そちらの方の分野の小説は現代でも高い評価を受けており、21世紀になって彼の書いた“Four Feathers”が『サハラに舞う羽根』と題され再映画化されたのにはビックリした。私は同原作も読み、そちらは予想以上に面白く読めた。 で、そのメースンが創作した探偵が本書に出てくるアノーだ。第1作は国書刊行会にて訳出された『薔薇荘にて』で、本書は第2作に当る。しかしながらこのアノーはフランス人という特長以外、特段特筆すべき個性を備えていないというのが私の印象。特に古典ミステリの探偵役は往々にして論理や状況をこねくり回す傾向にあり、そのくせ掴んだ証拠や閃いた推理はもったいぶって最後まで開陳しないという、実際にいたらあまり付き合いたくない人種なのだが、このアノーもその例に洩れず、それゆえ、英国人作家によるフランス人名探偵というとクリスティのポアロがつとに有名だが、一説によるとポアロのモデルはこのアノーらしい。しかしながら後世の評判から推し量るに亜流が元祖を上回ったようだ。 本書で語られる事件は実にオーソドックス。フランスにある館「グルネル荘」の主人が亡くなり、その遺産が養女に相続されるが、それを不服に思った義弟がその養女を毒殺したかどで告発する。その無実を晴らすべく、養女が救いを求め、名探偵名高いアノーに白羽の矢が立つといった内容。 事件の調査を依頼されたアノーはセオリーどおりに捜査を展開する。既にあった事件を調べるだけという純粋な推理小説である本作は舞台が館のみでほとんど展開すること、続いて事件が起こらないことから、現在のミステリを読み慣れた読者にはかなり退屈に感じるだろう。また登場人物も凡百の小説同様、非常に類型的だ。 そしてその退屈な読書の末に明かされる真相は、それまでの苦難を解消されるとは決して云いがたく、言葉が過ぎるかもしれないが時間を無駄にしたと思われること必定だろう。 私が本書を手にした経緯は歴史に残る名作という謳い文句に惹かれてのことだったが、読後の今ではこれは全くの嘘だと断言する。本書は歴史に残すだけの価値はほとんどない。 特に私は最後に明かされるある仕掛けにすごくアンフェア感を覚えた記憶があるこの仕掛けは読者に推理する材料が十分与えられているわけではないので、読者が看破する余地がない。それが最大の不服なのだが、実は最近読んだ島田荘司の『摩天楼の怪人』でも同様の仕掛けが盛り込まれていた。しかしこちらの場合は確かに、手がかりはあるものの読者が全てを推理して見抜けるものではなかったが、それを補って余りある物語世界を展開してくれている。つまり逆にこの仕掛けが作者の想像力に思わず感嘆してしまうほどの内容であるから、全く不満を抱くことがないのだ。 しかし本書の場合は事件は地味な上に、明かされる真相も地味。それに輪をかけて読者の推理が介在しない仕掛けを持ち込んでいるがために、傷口にどんどん芥子を塗りこむが如く、悪い方向へ行っている風に取れてしまう。 さらに明かされる犯人も私があまり評価しないカーの某作を思わせ、それが本書の悪印象に拍車を掛けてしまった。 また最後に犯人を糾弾する段階にいたって、アノーが「実は最初から犯人は解っていた」というような言葉を吐くにいたり、この後出しジャンケン的な割り切れの無さも不快感を及ぼした。 もし読んでみようかなと思っている方がいたら、止めておいた方がいい。ミステリ研究家、マニアの方のみお勧めする。
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どこかの作家の雰囲気におわす 文章。そしてちょっと不思議な雰囲気… そう、はじめから恐喝が出てくるという 大胆な作品であります。 確かに面白いです。 だけれども、 なんか行ったりきたりを繰り返しているのよ。 それが不満でした。
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死亡した富豪・ハローウ夫人。夫人を毒殺したとして告発された姪ベティ。彼女を告発したハローウ夫人の義弟のワベルスキー。一時弁護士を通じて恐喝をかけて来たワルスキー。ベティを守るために動き出した弁護士ジェレミー。パリ警視庁アノー警部の登場。ベティの友人アンとワベルスキーの関係。夫人の隣の部屋で寝ていたアンの顔に近づいた犯人の顔。殺害された薬屋のジャン・クラデル。アノー警部の推理とジェレミーの協力。 船橋図書館 2009年8月11日初読
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