英雄なき島 の商品レビュー
硫黄島戦での元海軍中尉の証言だ。 アメリカが行った戦闘で、唯一自国の死傷者が相手国よりも多かったのがこの戦いだ。では、硫黄島にいた陸軍海軍がそんなに猛者だったのか、ということではない。戦闘が始まる前に、すでに結果は出ていた。 水がほとんどなく、光を遮る樹木もなく、地熱も高く、至る...
硫黄島戦での元海軍中尉の証言だ。 アメリカが行った戦闘で、唯一自国の死傷者が相手国よりも多かったのがこの戦いだ。では、硫黄島にいた陸軍海軍がそんなに猛者だったのか、ということではない。戦闘が始まる前に、すでに結果は出ていた。 水がほとんどなく、光を遮る樹木もなく、地熱も高く、至る所で二酸化硫黄が吹き出るような島で、兵士たちはまず壕を掘ることを強制された。掘ればガスが吹き出し、壕の中は50℃になるそうだ。ひとり最大10分ほどの作業しかできない。それを、島のあちらこちらに、地下30mまで掘っていったそうだ。風が通らないとガスや熱気で窒息するので、必ず両側から掘っていった。そんな作業で、ほとんどの兵士は病人になってしまい、老人のようにトボトボとしか歩けないようになっていた。 そして米軍が硫黄島に上陸した。ペリリュー島での戦い方を真似て、米軍がすべて上陸してから一斉攻撃をする作戦にでた。しかし、想像を絶する艦砲射撃で通信網は断線し、壕から壕へ行く道に迷ってしまうほど地形が変わってしまう。そんな中で、病人のような兵士にどんな戦いができたのだろう。 米軍側の死傷者が多かった謎については、証言者の推測で書かれている。米軍にとっては日本の新兵器だと思ったそうだが、記録には残っていないらしい。どんな新兵器なのかについての記述はやめておく。日本軍の生き残った数が多かったのは、壕にこもって戦わなかったからである。真っ裸で壕の中で息を潜めていたようだ。 話は変わるが、満蒙開拓団の引揚者の方から、話を聞いた時に思ったのだけれど、いつ日本に帰れるかも見通しがなく、乞食までしながら、生きようとしたのは何故なのか。本人に聞いても、「死ぬことは考えなかった。ただ生きていただけ」と返ってくるだけで、僕には理解できなかった。 しかし、この本の中で、壕の中で暮らすうちに、人間としての理性がなくなり、動物のようになってしまうと、水を求め、食べ物を求め、ただ本能で生きているだけで、自殺などは考えもしなくなっていたと書かれていた。やっと腑に落とすことができた。 人間の理性を奪うのが戦争だ。死ぬか生きるか。自分が生きるためには、友達であっても殺すことができるのが戦場。優しさや思いやりがあっては生き残れない。少しでも強靭な肉体があれば、ただそれだけでいい。しかし人間から理性がなくなったら動物などというのは動物に失礼だ。地獄を彷徨う餓鬼そのものだ。硫黄ガスが吹き出す島には相応しかったのかもしれない。
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今までの硫黄島の戦いに対する観念が覆された一冊。 硫黄島では二万人を越す日本軍が戦った。 それぞれの戦闘があったのだろうがこれもまた一人の貴重な戦争の真実。 他の島の戦争とはまた違う凄惨な記録が残されている。 私達はこの犠牲の元に生きていることを忘れてはならないと思った。
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まさにタイトルとおり「英雄なき島」だったんだなと。近年の「硫黄島」のブーム作品をまったく読んで(もしくは観て)なかったので、すんなりと受け入れられた。同時にブーム作品の方も読んで(もしくは観て)みたくなった。どれくらい美化しているのかと。戦争の真実を語ってくれる人ももう残りわずか...
まさにタイトルとおり「英雄なき島」だったんだなと。近年の「硫黄島」のブーム作品をまったく読んで(もしくは観て)なかったので、すんなりと受け入れられた。同時にブーム作品の方も読んで(もしくは観て)みたくなった。どれくらい美化しているのかと。戦争の真実を語ってくれる人ももう残りわずかだな。語ってくれとは言えないけれど。辛い過去を掘り起こす作業はきついものね。だからこそこうやって語ってくれる人は貴重だし、偉大だなとも思う。
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