詩集「大戦序曲」 の商品レビュー
橋本治の詩集です。 著者は「あとがき」で、「なにが言いたいのかというと、こー見えて私は、論理的説得力より詩的説得力の方が好きで得意だということだ」といい、みずからを「ちょっと前衛が入った抒情詩人」だと規定しています。ただわたくしはやはり、著者は本質的に散文作家だと考えています。...
橋本治の詩集です。 著者は「あとがき」で、「なにが言いたいのかというと、こー見えて私は、論理的説得力より詩的説得力の方が好きで得意だということだ」といい、みずからを「ちょっと前衛が入った抒情詩人」だと規定しています。ただわたくしはやはり、著者は本質的に散文作家だと考えています。本書に収録されている詩は、ことばの芸術として自立している印象よりも、それらのことばを通して読者が聞き取ってしまう音楽性によって支えられているように感じられるものが多いように思います。 たとえば「海戦夜曲」や「三帝会戦」などの比較的長い詩が典型的だと思うのですが、これらの詩は明白な演劇的構成をもっています。さらに「ラブレター」や「危険なラディゲ」に収められている詩は、コーラスを思わせるようなリフレクションをともなっており、歌謡曲やニュー・ミュージックについても饒舌に批評をおこなう著者だけに、歌詞として書かれた作品であるかのように感じられます。 著者は作詞家の橋本淳をはじめとする作詞家たちを高く評価しており、「現代詩がどうしたの鳩よがどうしたのと言ってる暇に、こういう膨大な詞藻をどうして平気でほったらかしとけるのだろうかと、私は訝しんでいるのである」と述べていたことがありますが、本書の詩もそのような著者の発想にもとづいて書かれたものではないかという気もします。
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