著作物再販制と消費者 の商品レビュー
公取委にいたこともある著者が、書籍などの著作物の再販制について論じた本。 1998年に公取委が著作物再販制に関する最終報告書というもののなかで、再販制廃止に向けた議論を展開したことがあったらしい。本書はそれに対して書かれたもので、基本的には再販制維持のスタンスを取りながら、再販制...
公取委にいたこともある著者が、書籍などの著作物の再販制について論じた本。 1998年に公取委が著作物再販制に関する最終報告書というもののなかで、再販制廃止に向けた議論を展開したことがあったらしい。本書はそれに対して書かれたもので、基本的には再販制維持のスタンスを取りながら、再販制の歴史や諸外国の制度との比較などが行われている。また、政治家との対談なども収録されている。 古い本ではあるが、今日でも著作物再販制は維持されており、本邦における状況は当時とそう変わらないと思われる。再販制の歴史や国際比較の情報として興味深く読めた。 再販制とは、メーカーが卸や小売に対して販売価格を指定することであり、原則として独禁法で禁止されている。ただし種々の例外があり、書籍やCDなどは再販制が認められている。 かつては日用品などもっと多くのもので再販制が取られていた。そのきっかけはおとり廉売の防止であったらしい。つまり、小売が客寄せのためにある商品を極端に安く販売すると、メーカーとしてはブランド価値の低下に繋がり困るので、一定(以上)の価格で売ることを小売に強いたのがはじまり。これを破って安売りした小売には、商品を卸さないなどの報復措置が実際に取られていたという。ただし、このような日用品の再販制は、消費者に不利益を与えているとして、独禁法で禁じられていく。 一方で、著作物の再販制はそもそもの趣旨が異なっており、消費者の利益になっているというのが本書の主張だ。著作物は文化の担い手としての面があり、多様なものにアクセス可能なことが重要となる。実際に再販制を禁じたことのあるフランスでは、「売れ筋」の本のみが刷られるようになり多様性が失われたため、再販制が復活したという経緯がある。 再販制にも色々な形があり、日本では返品可能な委託販売型の形式が多いが、イギリスでは2年程度の時限式の再販制(期間経過後は値引きできる、ただし買取型)が多いらしい。 対談の収録形式になっているため、本書全体で何度か同じ話が繰り返されているきらいはあるが、今日の再販制の経緯や考え方がよくまとめられていると感じた。 次に読んでみたい本:『岩波茂雄傳』(本に正価を付けた経緯)
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