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日本浄土 の商品レビュー

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2018/08/30

引越しをひかえ本を1/3に減らそうと整理するなか,10年近くぶりに手にとって再読. 10年前の当時,藤原新也のエッセイをむさぼり読むとまではいかないまでも,新書を何冊も買って読んでいたことがある.人生のいろんな別れや挫折を経験した,30歳当時. それから10年いろいろあって,...

引越しをひかえ本を1/3に減らそうと整理するなか,10年近くぶりに手にとって再読. 10年前の当時,藤原新也のエッセイをむさぼり読むとまではいかないまでも,新書を何冊も買って読んでいたことがある.人生のいろんな別れや挫折を経験した,30歳当時. それから10年いろいろあって,父親になり,ニッポンの社会という波でそれなりに船を漕ぎ続けてきた上で本書を再読して,あらためて,文字に書き落とせば当たり前の事実に思い当たった. それは,写真も,写真やエッセイに変換される前の,旅先で脳裏に焼き付けられる風景も,それ自体は,明るくもなければ,暗くもなければ,悲しくもなければ,美しくもなければ,醜くもない. エッセイを読んでいい文章だと思うかどうか,写真をみていいと思うかどうか,すべは読者がもつ記憶とその記憶を処理する心というか頭なんだ,ということ. このエッセイは,そんな当たり前をあらためて確認させられるほど,藤原氏の「イメージ」センサーがときに敏感に風景に反応するさまが文字として綴られていて,それが魅力なんだということを思い出させてくれた.

Posted byブクログ

2013/01/23

珍しく、プライベートなことが事細かに書かれている。 自身のファーストキス、破天荒な父親の駆け落ち、親の破産、友人の娘の結婚・・・ 写真は少なめ。 物悲しく、懐かしく、時間がゆっくりうごく世界。 昔見た夢の記憶のような。 東京藝術大学中退。 どんな絵を描いていたのだろう?

Posted byブクログ

2009/10/07

「遠くの潮騒の音が、ざわざわと、記憶の産毛を、なでる」 10年ほど前にはまだそこここに残っていた昭和の面影が、日本のいたるところから急激に消えていく。 おばちゃんたちがお店の人と無駄口を叩きながら買い物を楽しんでいた光景はなくなり、シャッター商店街が軒をつらねている。歩いていく...

「遠くの潮騒の音が、ざわざわと、記憶の産毛を、なでる」 10年ほど前にはまだそこここに残っていた昭和の面影が、日本のいたるところから急激に消えていく。 おばちゃんたちがお店の人と無駄口を叩きながら買い物を楽しんでいた光景はなくなり、シャッター商店街が軒をつらねている。歩いていくのはコンビニ、クルマではロードドサイドの大型スーパーでお買い物だ。どこの街の駅前も同じサラ金とチェーン居酒屋の看板で、のっぺりした表情。旅行者は駅に降り立っても、バス路線は「ある」という名目だけの一日数本。クルマ利用以外の旅は過酷になりつつある。 著者は「今日、佳景に出会うことは大海に針を拾うがごとくますます至難になりつつある」という。 昭和に生きた我々の眼に残る人間の情や自然の風景を見ることは、都会以外でも稀になった。 しかし記憶の底にあるものが、何かにであうことで、ぐっとリアルに自身の心に迫る時がある。 小さいもの、見えにくいものの中に、真実は潜んでいる。 日本浄土を旅していくのは、藤原さんだけではない。 藤原さんの「眼」に親近感を感じるといったら、彼は「しゃらくさ〜い」といいそうだけれどね。 浄土へのガイドブックがここにある。

Posted byブクログ