紫式部集 の商品レビュー
山本淳子氏の「紫式部ひとり語り」がとてもおもしろく、その独白のもととなる紫式部集に興味を持ったので、全体はどういうものなのかと本を探してみた。で見つけたのがこの本なのだが、・・本文は原文に必要な注釈が下についているが、古文の苦手な私にはまるきり歯が立たない。でも校注者の南波浩氏の...
山本淳子氏の「紫式部ひとり語り」がとてもおもしろく、その独白のもととなる紫式部集に興味を持ったので、全体はどういうものなのかと本を探してみた。で見つけたのがこの本なのだが、・・本文は原文に必要な注釈が下についているが、古文の苦手な私にはまるきり歯が立たない。でも校注者の南波浩氏の解説はとても興味深かった。 南氏は「紫式部集」は、詞書と歌が緊密に結びつき、少女時代から晩年までの紫式部の歌風、心情、生活、人間性を知るうえでとても絶好の書だという。そこには一般にはあまり知られない式部の、勝気で、率直で、しかも明るく優しく、知性ゆたかな紫式部が見えるという。 にもかかわらず、古来からあまり注目されなかった。それは良い伝本が流布しなかったから。江戸期の研究、安藤為章「紫家七論」、本居宣長も取り上げていない。与謝野晶子が「紫式部考」(大正5年7月刊『新訳紫式部日記』所収)で取り上げたのが最初だ。 この岩波文庫版が出たのが1973年10月。南氏は前年1972年に「紫式部集の研究ー校異篇・伝本研究篇」を著し、現存数十本の伝本を校合の結果、それぞれの系統を明らかにし、信頼しうる校定本文の作成に務めた。 最も信頼できるのは「実践女子大学蔵本」でこの本もそれを底本にし、実践本(126首)に2首を増補し128首として著した。 〇現存伝本の系統は3系統となっており、その伝存の過程で脱落や異同が生じて、自ずから異なる系流をなした。 1.定家自筆本系:代表は実践女子大学蔵本⇒この実践女子大本が最善本である。 古本系、別本系以外のものは定家本で数十ある。 2.古本系:代表は陽明文庫本 他系に比べ最も歌数が少なく、部分的に古い姿を残存させているので古本系といわれる。現在7本。 3.別本系:享保写本・宝暦写本・岡田本の3本 定家本系から派生したものと思われるが、本文が乱れていて信頼性がうすい。 <南波浩氏に至るまでには・・> ・江戸時代「群書類従」に収められ公刊されたが、本文にかなり誤写があり、しかも、その後公刊された活字本はすべて類聚本に拠ったものであったため、本文の校合にも、誤文の訂正にも役立たなかった。 ・昭和初期になり、その点に注目した池田亀鑑博士が、類聚本以外の異系統の伝本を探求して、紫式部集の伝本研究に大きな礎を築いた。 ・戦後になって、諸家の研究によって、続々と新資料の発見、翻刻、紹介が行われた。現在では式部集の写本は数十本の存在が知られるに至った。 娘賢子・大弐三位集、弟・藤原惟矩の歌集も所収してあるのも価値がある。 南波浩(なんばひろし):1910.4.30-2000.6.29 京都帝国大学大学院修了。同志社大学名誉教授。 1973.10.16第1刷 1978.10.20第5刷 図書館
Posted by
- 1