ドウェル教授の首 の商品レビュー
ううむ、おもしろい! これ、1969年の作品なんですよね。もう今からおよそ50年も前。もちろん古臭さを感じる箇所もありますが、それでも読みやすいのは起伏に富んだ展開で引きずり込まれることに加え、訳文が優れているからなのでしょう。ぐいぐい読み進めてしまってわずか1日で読破してしまい...
ううむ、おもしろい! これ、1969年の作品なんですよね。もう今からおよそ50年も前。もちろん古臭さを感じる箇所もありますが、それでも読みやすいのは起伏に富んだ展開で引きずり込まれることに加え、訳文が優れているからなのでしょう。ぐいぐい読み進めてしまってわずか1日で読破してしまいました。読書スピードの遅い自分にとっては脅威なことです。 物語の終盤が場当たり的な展開で多少残念でしたが、中盤以降は緊迫しっぱなしで、楽しめた一冊です。
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正義感に溢れる若き女医マリイ・ローランは、新進気鋭の外科医ケルン教授のアシスタントとして雇われる。研究室内で目にするものについて一切口外しないこと、と誓約させられたマリイが見たもの、それは台の上に載せられ多くの管や機械に繋がれたまま、こちらをじっと見つめる生きた人間の男の首だった...
正義感に溢れる若き女医マリイ・ローランは、新進気鋭の外科医ケルン教授のアシスタントとして雇われる。研究室内で目にするものについて一切口外しないこと、と誓約させられたマリイが見たもの、それは台の上に載せられ多くの管や機械に繋がれたまま、こちらをじっと見つめる生きた人間の男の首だった。その首が、先日死亡したはずの高名な外科医・ドウエル教授の首だと気づいたマリイは、ケルンの命令に背いて、ドウエル教授の首と密かにコミュニケーションを取る。そこで明かされたのは、ドウエル教授の功績を横取りして名声を得んと企むケルンの悪辣な本性だった。ケルンは他の人間の首も蘇らせることに成功し、さらに別の人間の胴体を首に繋げて蘇生させる禁断の実験に着手する。 一方、ドウエル教授の子息アルトゥール・ドウエルは、親友のマレーから信じ難い相談を受けていた。列車事故で急死し、その後死体が行方不明になっているかつての恋人と瓜二つの体型と仕草の女性を見つけたというのだ。かつて父が研究していた蘇生技術の影を感じ取ったアルトゥールは、マレーと共に謎の女性の身辺を探り始める・・・ 「ソ連のジュール・ヴェルヌ」と評されたアレクサンドル・ベリャーエフ、1926年の作品。古典中の古典です。 ネタバレ全開の新版表紙デザインがアレな感じではありますがヽ( ´ー`)ノ、本編でもいきなり冒頭から、この作品の最重要ファクターである「生きている首」ドウエル教授の首が登場します。最初にネタ出ししちゃってこの先どうストーリーを引っ張って行くのか?とちょっと不安になるんですが、いやいやどうして、この先の展開がスピーディーで面白い! 研究室の奥で密かに生きている首、死体置き場から非合法に死体を抜き取り首と繋げる実験、首に大きな傷跡のある謎の美女、一度入院したら二度と出られない監獄のごとき精神病院・・・と、ホラーテイストな要素がてんこ盛りで、SFホラーの名作としても名高い作品ですが、実は冒険活劇としての側面もあり、物語の後半でアルトゥールとマレーが囚われたマリイを救出しようと策略を張り巡らして奔走する場面は頁を繰る手がもどかしくなるほど。名作SFホラーであると同時に、一大エンタテインメント作品でもあるといっても過言ではないでしょう。何分にも古い作品ですので舞台設定が大時代的ですが、そこがまた今読むと一周してきて面白いヽ( ´ー`)ノ「そんな熱血漢いねぇよ!」とか、突っ込みどころ満載なわけですが、そんなところも合わせて楽しめます。 なお、旧訳のままですので、訳文も古いです。が、読み辛さを惹起する古さではなく、古いなりに端正で品のある訳文で、古さ故に読むに耐えない作品も少なくない翻訳文学の中では出色の出来ではないかと。訳が旧版のままだからちょっとなぁ、と躊躇しているSF者の皆さんには、ぜひおススメしたいですね。
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最近、復刻版が登場した。ちょうど同様の手術が現実性を帯びてきていることもニュースで報道された。書いた当時は作者もありえないと思っていたことだろう。時代が追いついてきたということである。
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東京創元社2016年復刊フェア書目。 ソビエト時代の名作SF。他社からも単行本が出ているが、創元は文庫で復刊された。 SFではあるが、冒険活劇の一面もあり、古き良き時代を感じる。ラストはしっかり感動的なシーンもあって、エンタテイメントとしての完成度も高い。 翻訳が原卓也というのも...
東京創元社2016年復刊フェア書目。 ソビエト時代の名作SF。他社からも単行本が出ているが、創元は文庫で復刊された。 SFではあるが、冒険活劇の一面もあり、古き良き時代を感じる。ラストはしっかり感動的なシーンもあって、エンタテイメントとしての完成度も高い。 翻訳が原卓也というのも驚いた。豪華だな~。
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がっしりとした文体で、内容も良く組み立てられた上質なエンターテイメントであった。それぞれのキャラクターが生き生きとしていて、魅惑的な悪役の堂々たる悪役っぷりや、ヒロインの救出劇などわくわくする。 しかし、娯楽小説としてよく出来ているということ以上に、主題を低俗な生命倫理にとど...
がっしりとした文体で、内容も良く組み立てられた上質なエンターテイメントであった。それぞれのキャラクターが生き生きとしていて、魅惑的な悪役の堂々たる悪役っぷりや、ヒロインの救出劇などわくわくする。 しかし、娯楽小説としてよく出来ているということ以上に、主題を低俗な生命倫理にとどめなかったことに、著者がこの時代においてずっと先んじていたことがわかる。これは今だからこそわかることかもしれない。今日においても、クローン人間を作ることは許されるのか、であるとか、生命の選別はどこまで許されるのか、といった紋切り型で即物的な問題提起がなされるが、それは実はたいした問題ではない。こういった疑問は、動物がかわいそうか否かといったといった疑問と同種のものである。どのみち我々は他の種の動物を殺さなければならないのであるから、これは自己満足なのであってその解決もある意味では社会的になされるものである。極端に言えば、多数決で大多数が満足すればそれでよいことである。しかし、著者は人間を首だけにしてしまうことで、我々が肉体と深く結びついた欲求を抱いて活動していることをまず想起させる。同時に、それぞれの想念がいかに異なるのか、そしてそれがどのように身体とかかわるのかを痛烈に思い知らされる。我々は人間が脳によって意識を生じさせていることを知っている。それゆえ、頭をなくしてしまうことは出来なかったが、それでも十分な効果を持たせることが出来た。当時ソ連で頭だけで生きている犬が発表されていたことも、真実味を増すことに寄与したに違いない。当時の人々にとって、首の移植は手放しに賞賛すべき科学の進歩であったのだ。それゆえに、それが意味することも真剣に考察せねばならない主題であった。
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