(新)海の百合 の商品レビュー

アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ(著者),品田一良(著者)

2022/07/29

《たしかに、男は強くなくてはいけないわ。でも、それ以上に、おごそかでなければ》

本来ならヴァニーナの儀式について考察を述べたり感想を書いたりすること自体、野暮というものです。それは彼女の揺るぎない決意であって、誰にも邪魔されない｢恋｣という感情が生み出したひとつの儀式ですから。なのでちょっとだけ、ほんのちょっとだけ書き残しておくことにします。

マンディアルグの小説の中で｢陵辱｣される少女(あるいは処女)たちは、往々にして覚悟というか、恐れだけではない感情も有しています。まさしく本作でヴァニーナが言うところの「荘重」が正鵠を射ているのでしょう。そのため少女が陵辱された後は陶然とした、儀式ばった感情のみが堆積して、世界が変わってしまった(正確には、世界にさらに近づいた)ように感じるわけですね。この儀式性と処女性が自然に結びつこうとする感じ、すごいなぁ。そこにサルジニア島の海岸と海百合が加わって、さらにバロック的な描写も連なり…ああ、なんて贅沢な美しい作品なんでしょう…最初から最後まで感動しっぱなしでした。

※『夜想 特集 中川多理』では中川さんが本作『海の百合』や同じくマンディアルグの秀作『仔羊の血』に登場する各主人公の女の子たちを人形化されています。どちらも素晴らしいので、併せて楽しむことを提案してみます( *´꒳`*)