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駆けぬけた夏 の商品レビュー

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2011/11/12
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新感覚で描く夢を追う少年の物語  「駆けぬけた夏」は、小学生から大人までが愉しめるというキャッチフレーズで理論社から出版されている創作童話新シリーズの中の一冊。 作者の柴田隆は、会社勤めをしながら新聞社の童話シリーズなどに応募して優秀作に入選しているアマチュア作家(1948年生まれ)であり、この本は最初の出版作品。   一方、絵を描いている島野千鶴子(1954年生まれ)は「月刊絵本・第四回創作絵本新人賞」で最優秀買を受賞、また「染織十 ・創作絵本賞」で優秀賞を受賞した「ぺろぺろ」がまもなく皆既社から出版されるなど、今最も注目されている絵本作家。余談になるが、彼女は本紙でユニークなまんが論を展開されている武庫守男さんの奥さんである。 お父ちゃんの方が泣いているように見えた。  物語は、タダシという小学 校四年生の少年が、夏休みにてんかというオッチャンと出会い、オ。チャンの夢である大阪城の宝物探しの手助けをするという、これだけでは児童文学によくあるストーリー。 その間には、お母ちゃんの家出とお父ちゃんの死という、子どもにとっては非常にショックな出来事が続けて起こります。タダシは、それらの出来事にどう対応したか………。   「駆けぬけた夏」の新しさは、タダシにとって母親の家出や父親の死よりも、オッチヤンとの宝探しの方が大事であったということ。タダシの母親が家出をした場面は次のように書かれている。   「やせて、弱々しいお父ちゃんの後すがたは、とても安心なんかできなかった。それに、タダシは、ちっとも泣いていないのに、どうして――泣いたらあかんでえ――なんて言うのか、ほんのすこし腹が立った。どちらかといえば、お父ちゃんの方が泣いているように見えた」 これまでの「子ども感」では理解できない  ここには、今までの児童文学が一貫して描いてきた”やさしい母親・強い父親〃という既成概念への訣別がある。母親の家出を子どもは悲しむものだという社会の常識(大人の!)を見事に打ち破っているばかりか、大人と子どもの位置が逆転している。  ここまで来ると、これまでの「子ども感」では、もはやタダシを理解できない。こんな子どもに出会った時、大人はギョッとする。たとえば、タダシは父親の死よりも、目前のすしの方が大事であり、夢中ですしを食べるが、それを理解できずに、ただなぐるしかない、タダシの母親のようになってしまう。  この本の良さは、親と子どもを対等の人間として描き、子どもは決して親の付属物ではないし、また親の夢を押しつける存在でもないと言い切っていることにある。  「その朝、タダシは、お母ちゃんを殺して、お父ちゃんを食べた。タダシはついに、暑い夏を駆けぬけた」  ぜひ親子でこの本を読む。特に青い鳥症候群を作り出している教育ママ、いつまでもピーターパンでいるパパには、いい薬だと思う。

Posted byブクログ