日本国家の起源 の商品レビュー
本書は1960年刊行の岩波新書青版で、これだけの内容、記述のものを「新書」で出していた時代だったのかと驚かされる一冊。さすがに半世紀以上前の著作なので、特に考古学的な内容に時代的な制約があることは否めないが、この時代の日本古代史学における問題意識や関心の所在などが良く分かったこ...
本書は1960年刊行の岩波新書青版で、これだけの内容、記述のものを「新書」で出していた時代だったのかと驚かされる一冊。さすがに半世紀以上前の著作なので、特に考古学的な内容に時代的な制約があることは否めないが、この時代の日本古代史学における問題意識や関心の所在などが良く分かったことは収穫だった。 本書が対象とするところは、一つに、日本に単一の統治組織の成立した時期はいつであったのか、またはどのような経過を経て成立したのかということ、もう一つは、そのような歴史上画期的な出来事を促したのは何であったかということで、前者については前篇「国土統一の過程」で、後者については後篇「二つの国家起源論」で論じられる。 前篇では、まず中国史書に現れる日本の記事に拠りつつ、特に邪馬台国の所在地問題が検討される。いわゆる大和説と九州説の対立であるが、この問題は日本の国土統一の時期をどこに置くかという分岐点にかかわるものであるとして、これまでの説を紹介し論じている。(ちなみに著者は九州説) 続いて、記紀の伝承は信じられるかとして、神武東征、神宮皇后の新羅征討、天皇の実在性等について検討がなされる。もちろんその結論も大事ではあるが、それよりも結論に至る過程というか、どのような根拠でそのような結論が導かれるかということについて詳しめに説明がされていることが、読者としてはありがたい。例えば、考古学的な話として銅剣・銅矛文化圏と銅鐸文化圏のことが紹介されていて、それを基に一つの結論が導き出されるなど。(自分も高校時代の歴史で習った覚えがあるが、ただ最近の考古学の成果では、二つの文化圏が対立していたとは捉えられていないらしい。) 後篇では、統治組織としての国家の形成を促したものは何であったかということについて、史実の考証だけではこと足りず、社会の内部構造に立ち入る必要性、そして 世界史的に視野を拡大する必要があるとして、英雄時代論及び騎馬民族征服説が取り上げられる。 自分が歴史に興味を持った頃には、まだ騎馬民族説の議論が少しはあったが、現在ではほぼ否定的になっているのだろう。それに対し、英雄時代論のことは本書で初めて知ったのだが、石母田正氏の『古代貴族の英雄時代』がその代表的な論らしい。氏によれば、英雄時代とは、原始社会から国家・階級社会へと発展する過渡の段階であり、この過程において社会の基礎構造をなす氏族の性質も徐々に変化したとする。そしてこの英雄時代があったのかということについて、著者は邪馬台国連合の政治構造を明らかにすることによって解き明かそうとする。この辺りの議論になると、古代史学における基礎概念を理解していないと、正直良く分からないなあとの感がした。 論点に対する所説がコンパクトに整理されており、また著者自身の結論の論拠も明確にされているので、分からないなりにも考え考えしながら読み進めることができた。
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