1,800円以上の注文で送料無料

タイ政治・行政の変革1991-2006年 の商品レビュー

4

1件のお客様レビュー

  1. 5つ

    0

  2. 4つ

    1

  3. 3つ

    0

  4. 2つ

    0

  5. 1つ

    0

レビューを投稿

2011/07/25

タイは2006年にクーデターを経験し、また、2007年には新しい憲法が公布され、また、その後の選挙や政権交代、また、一昨年来のPADとUDDの対立等、政治的にまだまだ揺れ動いている。一方、この本が扱っているのは、1991年から2006年までの15年間、タクシン政権が軍事クーデター...

タイは2006年にクーデターを経験し、また、2007年には新しい憲法が公布され、また、その後の選挙や政権交代、また、一昨年来のPADとUDDの対立等、政治的にまだまだ揺れ動いている。一方、この本が扱っているのは、1991年から2006年までの15年間、タクシン政権が軍事クーデターによって終わりをつげた頃までであり、そういう意味では、最近の状況を扱っていない。ただ、タイの政治・行政の大きな流れをつかむためには、好適な本である。執筆陣は大学あるいは民間機関の研究者であり、内容も実証的・論理的であり、読んでいてある種の安心感を感じることが出来る。2月26日、おととい、タイではタクシン元首相の裁判に対する判決が下された。資産の没収を含む、元首相には厳しい内容の判決となっている。一時は元首相を支持するグループ(UDD)が判決前後に、バンコクで大規模な示威行動を起こすのでは、という予想もあったが、UDDは、大規模集会を3月12日に開くというアナウンスを行っている。そこでまた、昨年のような暴力的な衝突等が起きなければ良いけれどもな、と少し心配している。そういう単純なものではないことは分かっているけれども、大雑把にPADの支持者は都市部の中産階級以上、UDDの支持者が地方・農村の一般市民、という構造があるとして、PADとUDDの対立はそういった階層間の対立である、との見方もなされる。しかし、この本の主題は別のところにある(扱っているのが2006年までなので、時間的に扱うのに間に合わないということも勿論あるけれども)。世界一般的に考えられている、いわゆる「民主主義」か、あるいは、国王陛下を元首とする「タイ式民主主義」か、の選択という、歴史的に大きな流れがタイにはあり、方向としては世界一般的な「民主主義」の方向に向かっているのではないか、というのが、この本のまとめである。そういう視点から考えれば、階層間の対立は、いずれ時が解決する(というか、いわゆる民主主義の枠内での争い=選挙とかになる)、というのが大きな流れ、と解釈すれば良いのかもしれない。が、短期的・中期的に見れば、その対立はタイ社会に混乱を招いているし、また、2006年の時のように、混乱が続けば、再び軍部が登場するかもしれず、あるいは、国王陛下の健康問題など、まだまだ混乱の種は残っているように思う。我々のように、タイでビジネスをやっている人間にとっては、そういった表層的な、あるいは、現象的な事件、また、その影響の方が重要な問題ではある。

Posted byブクログ