本居宣長の世界 の商品レビュー
近世の日本思想、とくに伊藤仁斎と賀茂真淵の思想に目配りをしながら、本居宣長の思想が投げかけている問題について考察している本です。 著者は、伊藤仁斎の思想における「人倫」と「自然」の関係に目を向け、「個」として自立する人間を根拠に生の原理を確立しようとする方向が比定されていたこと...
近世の日本思想、とくに伊藤仁斎と賀茂真淵の思想に目配りをしながら、本居宣長の思想が投げかけている問題について考察している本です。 著者は、伊藤仁斎の思想における「人倫」と「自然」の関係に目を向け、「個」として自立する人間を根拠に生の原理を確立しようとする方向が比定されていたことを指摘します。こうした仁斎の思想は、真淵や宣長といった国学者たちの思想とおなじ方向を指し示すものということができますが、その一方で仁斎には、人間の「性」が自然の運動に相即することへの信頼があったと述べて、この点で仁斎と真淵および宣長のあいだにちがいがあると論じています。 真淵は、彼が生きた時代が、「人心直くして言雅」なる「古へ」から遠く隔たった「後世」であるという意識を強くいだいていました。そのことが彼の古代への志向を根拠づけており、一方で「後世」への悲観的な見方を生んでいます。こうした姿勢は宣長にも見られ、とくに『古事記』を通して「神代に定まれる跡」を探索するという道が示されることになります。 こうして著者は、「人倫」を基礎づける基盤に「自然」を想定する近世的な人間観のなかで、宣長の思想が占める位置を明らかにするとともに、「日本的思惟」を探求する宣長の方法がもっている特質について考察をおこなっています。
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