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水洗トイレの産業史 の商品レビュー

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2023/06/11
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目次 序章 トイレ「水洗化」の意味するもの 第1章 前史――プラマーの世界から 第2章 もうひとつの前史―近代陶磁器業の展開と大倉父子 第3章 衛生陶器の工業化 第4章 水栓金具の工業化 第5章 戦後住宅産業の発展と衛生設備機器メーカーの誕生 概要 日本における水洗トイレの産業史として、現在のTOTOの歩みを、技術史を軸に叙述した書。「水洗トイレという視角に収めた日本近代化の歴史」(3頁)である。著者によれば、近代水洗トイレ(water closet,WC)が開発されたのは18世紀末のイギリスであり(30頁)、その際に必要だったのは、導水管の技術と便器となる陶器の技術であった(30-31頁)。 日本にあっては欧米とは異なり、在来産業としての金属パイプや金属バルブが存在せず、そのため配管技術も存在しなかった(54頁)。また、欧米とは異なり、屎尿を商品化して肥料にしていたこともあって下水道も存在しなかった(54頁)。 第2章以下で、トイレ産業に目をつけた現在のTOTOの前身となる企業を生み育てた大蔵孫兵衛、大倉和親親子が、トイレ産業の鍵となる陶器や水回り金具の製造と国産水洗トイレの商品化の成功を実現した様子が描かれる。 著者は、「トイレ工業」、「トイレ産業」といった括りが存在しない中で、「統計的裏づけの精緻さを欠く各種製造業の部分的寄せ集めから考えるしか方法がない」というところから本書の叙述を開始し、見事に成功したように思えた。TOTOという一企業の歴史と密着しすぎたことを難点として挙げる声もあるだろうが、これは叙述の困難さを思えば致し方がないように思える。 19世紀以降の都市衛生の変化を考える上で、誰もが一読して損はない本である。 “ 水洗トイレはそれ自体が偉大な発明(インベンション)であり、排泄設備の歴史的イノベーション(新機軸)であったが、それが普及することによって二重、三重に大きなイノベーション(革新/刷新)をもたらした。まず、第一のイノベーションは公衆衛生面、つまり都市の衛生状態を改善したということで、人間の健康維持、ときに生命そのものに対して実質的な貢献をした。第二のイノベーションは清潔面で起こった。「清潔」は疾病の予防という意味で「衛生」に重なる。が、さしあたり直接健康に被害のないレベルにおいても、悪臭や汚物の放置、害虫の発生といった不快な住環境を「不潔」として否定し、一方で個人および社会の生活をより快適なものに改善していく力となった。第三に、心理面でもイノベーションが生じた。これも清潔面に深く関わるが、より個々人の内的な問題として排泄行為への感覚を刷新し、排泄空間の快適さへの欲求を顕在化させた。かたや、汚物を身の回りから遠ざけるのみならず、ときにその存在を意識から抹殺することを欲する心理を生んだ。” (前田裕子『水洗トイレの産業史――20世紀日本の見えざるイノベーション』名古屋大学出版会、名古屋、2008年5月15日初版第1刷発行、4頁より引用)

Posted byブクログ