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真実委員会という選択 の商品レビュー

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2010/05/09

 「平和」という事柄について、私たちはもっと想像力を豊かにする必要がある。たとえば今も世界のどこかで続いている政治的抑圧や紛争についても、その暴力や混乱が終焉すれば問題が解決するわけではない。  むしろ、その悪夢が去ったあとには過去の不正や犯罪をどう処理するかという課題があり、お...

 「平和」という事柄について、私たちはもっと想像力を豊かにする必要がある。たとえば今も世界のどこかで続いている政治的抑圧や紛争についても、その暴力や混乱が終焉すれば問題が解決するわけではない。  むしろ、その悪夢が去ったあとには過去の不正や犯罪をどう処理するかという課題があり、おびただしい数の被害者たちをいかに救済し、加害側との対立を調停していくかといった、さまざまな難問が待っている。  これまでそうした〝紛争後〟について対処してきたのは「裁判」「賠償」という方法論だった。つまり新たな政府は自分たちを被害者の側に置き、加害者と見なした者たちへの処罰を要求し、賠償を請求してきた。だが、それは往々にして不正や腐敗を隠蔽し、自国民を再び敵味方に分断し、新たな憎悪を生み出してきたのではないのか。  これに対し、加害側と被害側が対話という手段によってそこで起きてきた真実を認識し合っていくというのが、「真実委員会」という選択だ。それは真実を明らかにすることによって起きた悲劇を社会全体で共有し、人々の和解を進め、紛争後の社会を再生していくことに主眼を置いている。  その手法がけっして机上の理想論でないことを裏付けるために、著者は過去に各国で行われた真実委員会の実像を追って本書を編み上げた。対話による再生という発想は、近年の司法でもさまざまに提起されている。  憎悪と対立を平和へと転じていくためには、具体的にどのような視座が必要なのか。著者の哲学的なまなざしに支えられた価値ある力作だ。

Posted byブクログ