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旅のあとさき の商品レビュー

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2011/06/29
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なんて贅沢な旅なんだろうと羨ましくなってしまった。 「ナポレオンの見た夢」と副題があるように、ナポレオンとその周囲を中心に旅はテンポ良く進む。旅を彩るのは豪奢なレストラン・ホテルの煌びやかな料理とワインだ。 谷崎潤一郎や池波正太郎など、食にうるさい文筆家は数多いが、福田和也さんは食の愉しさを表現させたら抜群に上手い。しかも道中では、土地にちなんだ歴史上の人物のエピソードなどこれでもかとふんだんに挿入して、出し惜しみが無い。 旅行記のひとつの目的が、読者を旅に誘うことだとしたら間違いなく本書は目的を達成したと言える。 インゲンが、とてつもなく旨い。野菜そのものも美味しいのだが、出汁のコンソメの切れがよく、噛むごとに、インゲンの甘い香りとコンソメの芳香が膨らむ。 ナイフを入れると、ヒレ肉のような手応えを感じる。やや大きめに切って、口にほおばると、厚い実が口の中で解れていく、その優美な感触、舌触りに、陶然となってしまう。 リーデルのグラスに、黄金色の液体が流れこんでくる。幸福の訪れを知らせる扉をノックするように、堅い音が響いている。わざとのように素っ気なく、なんのギミックも要りませんから、とでも云うように試飲のグラスをさしだした。 旨い、このうえもなく甘い酒。その甘やかさの中心に軽く、しかし、消えることのない、薄荷のような、一筋の辛みがたなびいている。 (中略) 何という、甘美さだろう。 その余韻のなかで、テラスの外を眺めると、永い陽がようやく沈みかけていた。 たったひとつのレストランだ。たったひとつのレストランを訪れただけで、これだけの感情が迸る。なんて人生を楽しむ術に暁通した人なんだろう、と思う。

Posted byブクログ