聖なるヴァーチャル・リアリティ の商品レビュー
ヴァーチャル・リアリティについて、主として大澤真幸の社会学理論に依拠しつつ、社会哲学的な考察を展開している本です。 社会学的には、「意味」とは、世界の複雑性を縮減する機能をもつものとして理解することができます。社会的生物である人間は、体験に先立って存在する、世界を区分する「意味...
ヴァーチャル・リアリティについて、主として大澤真幸の社会学理論に依拠しつつ、社会哲学的な考察を展開している本です。 社会学的には、「意味」とは、世界の複雑性を縮減する機能をもつものとして理解することができます。社会的生物である人間は、体験に先立って存在する、世界を区分する「意味」のシステムに参与することで社会的身体を獲得します。こうした規範的な「意味」のシステムは、土俗共同体では「首長の身体」を中心にして秩序づけられています。他方、古代専制国家のような大域的王国では、抽象的で有効範囲の広い権力の源泉である「王の身体」が存在します。「王の身体」よりもさらに超越的で包括的な抽象身体が「神」と呼ばれる存在です。これは、多様な人びとが貨幣の交換を通して交流するところに成立している規範の帰属点として仮構されたものだと理解することができます。 このように、身体に基づく権力の抽象化・形式化を極限にまで推し進めていったところに、「情報」という概念があると著者はいいます。われわれの生物的な身体性を隠蔽し、そのうえに超越的な規範・権力を張りめぐらせたものとして、「情報システム社会」を理解することができるのです。本書は、こうした視座に立って、ヴァーチャル・リアリティの「聖性」の特色を明らかにしています。 ヴァーチャル・リアリティとは、なによりもまず、われわれの身体を拡張するものと考えられます。これは、身体のシミュラークルが、現実の身体に先立って、それをみちびく規範のように作用するということにほかなりません。さらにサイバー・スペース上のコミュニケーションは、現実の身体からわれわれを解き放ち、新たな秩序を編成していく可能性を切り開きました。しかしこのことによって、われわれの身体性はシミュラークルのなかへと回収されることになります。これは、現実の空間がコンピュータの資本主義的・技術的空間の秩序によって裁ちなおされるということであり、ヴァーチャル・リアリティの空間が「首長の身体」や「王の身体」に代わって「聖性」を帯びるということを意味すると著者は主張しています。
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以前読んだものを再読。 本書では、VRの技術がいかに聖なるもの、宗教的な畏怖の心や、資本や権力に関係してくるかを予言のような形で綴っている。以下引用。 「二十一世紀に出現する地球規模のサイバースペースは、国家権力よりもむしろアナーキーな<資本>の権力が跳梁する場である。<資本...
以前読んだものを再読。 本書では、VRの技術がいかに聖なるもの、宗教的な畏怖の心や、資本や権力に関係してくるかを予言のような形で綴っている。以下引用。 「二十一世紀に出現する地球規模のサイバースペースは、国家権力よりもむしろアナーキーな<資本>の権力が跳梁する場である。<資本>は利潤追求のために人々を洗脳する。さらには<資本>が、安定した利潤をあげようとして、「聖なるヴァーチャル身体」であると僭称する「偽王」たちと結託する傾向が現れる」 「ヴァーチャル・リアリティによって築かれる「偽王」の神殿は、科学技術を立て直すのではなく、そこに太古の魔術的な神々をよみがえらせるものだ」 「「偽王」の教団においては、「高次な自己」への渇望が、実は万人がもっている「小さな権力欲」の満足によって置き換えられる。二十一世紀サイバースペースをもとに、<市民>と呼ばれる人々の権力欲・攻撃性が組織化され、現実社会をまきこむ巨大な暴力装置にふくれあがっていく恐れがある」 この本の書き方はIT系の本にも拘らず、それ自体妙に宗教的な雰囲気があって、上のようなヴィジョンを特に根拠も、具体的な事例も示さず、ただ予言のように書いている。あたっている気がするのだけど、どうやってその状況を予見したのかさっぱり分からない。
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(1996.07.12読了)(1996.01.02購入) 情報システム社会論 ☆西垣通さんの本(既読) 「AI 人工知能のコンセプト」西垣通著、講談社現代新書、1988.10.20 「秘術としてのAI思考」西垣通著、筑摩書房、1990.01.30 「マルチメディア」西垣通著、岩...
(1996.07.12読了)(1996.01.02購入) 情報システム社会論 ☆西垣通さんの本(既読) 「AI 人工知能のコンセプト」西垣通著、講談社現代新書、1988.10.20 「秘術としてのAI思考」西垣通著、筑摩書房、1990.01.30 「マルチメディア」西垣通著、岩波新書、1994.06.20 「インターネットの5年後を読む」西垣通著、カッパ・ブックス、1996.04.25
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近代的な「市民」という概念が科学技術の進歩史観とむすびついて、この「小さな権力への希求」を無条件に肯定し、そこから発する行動を野放図に助長するのに役立ってきた。
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