日本流行歌変遷史 の商品レビュー
昭和の初め、外資のレコード産業と電気式録音という新しい技術の伝来をもって日本の「歌謡曲」という流行歌は誕生した。つまり流行歌とは、自然発生したものではなく、レコード会社がレコードを売るために、最初から流行させることを目論んで作られたものだった。時代の空気を反映したというよりは、時...
昭和の初め、外資のレコード産業と電気式録音という新しい技術の伝来をもって日本の「歌謡曲」という流行歌は誕生した。つまり流行歌とは、自然発生したものではなく、レコード会社がレコードを売るために、最初から流行させることを目論んで作られたものだった。時代の空気を反映したというよりは、時代の欲望や願望をあてこんで作られたものだった。戦争前のモダニズム、戦争中の戦意高揚、望郷の思い、焦土からの復興、集団就職と地方と都市、高度経済成長、戦後の若者文化の台頭、学生運動と挫折、オイルショック、シラケ世代、バブルとその崩壊と、激動と変遷の昭和時代に呼応するかのように、その時代その時代のあるべき「流行歌」として歌謡曲は生み出された。すべてはその時代の中で「より多く売る」ためというブレない姿勢は、ある意味で正確に時代を転写しているといえるだろう。本書の一つの大きな特徴として、あくまで対象を「流行歌=商業的に作られた歌」とし、自然発生的に生み出されたムーブメントにはあまり深く入っていかないことがある。例えばロカビリーやフォークソングという流行音楽は音楽史的にはとりあげられることがふつうなのだが、これらはあくまで軽く触れるだけにとどまり、それらがやがて以降の時代にそれぞれグループサウンズや商業フォークという「流行歌」という形になって初めてとりあげるというスタンスになっている。日本の近代ポピュラー音楽史ではなく流行歌史なのだ。そして著者は、その音楽的な構造から、宇多田ヒカルの登場=Jポップの誕生をもって、いったん歌謡曲の終焉と定義づけるのだが、この昭和10年~平成10年頃の約60年、どのような世の中の風潮があって、その時にどのような歌が流行っていたのかを年代順に解説していく。自分のように昭和の途中からではあるが、ほぼ時系列にその変遷を見てきた人間には、思い当たる節もたびたびあり、その音楽が生み出されたのにはその時代にとっての理由がある、ということも自然に受け止められるのだが、新曲も古い曲も時代の順番などを気にせず、すべてフラットに等価のものとして楽しんでいるネット世代の音楽ファンたちの中で、もし愛聴している音楽がどういう経緯をへて作られたのかに興味がある人は本書を読んでみたら面白いと思う。著者は、歌謡曲の大きな転機として二つあげていて、一つ目は期初のレコード産業と録音技術であり、二つ目はビートルズの来日と8ビートであるとしている。ビートが重視されるとメロディとハーモニーは軽んじられ、日本語は崩壊するとしている。その考察は一読に値すると思う。何でも聴ける世の中だからこそ、あえて時系列縛りで音楽を聴いてみるのも面白いかも。
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自分がリアルタイムで聞いてきたせいかもしれないけど、80年代以降は少々手薄な印象。逆にほとんど知らない60年代以前は、楽しめた。有名な「あさま山荘事件」の舞台となった場所が河合楽器の保養所だったとは初めて知った。日本古来の音楽くらいにとらえていた「演歌」という言葉が定着したもの一...
自分がリアルタイムで聞いてきたせいかもしれないけど、80年代以降は少々手薄な印象。逆にほとんど知らない60年代以前は、楽しめた。有名な「あさま山荘事件」の舞台となった場所が河合楽器の保養所だったとは初めて知った。日本古来の音楽くらいにとらえていた「演歌」という言葉が定着したもの一九六〇年代後半からだったのか。。。戦後すぐのヒット曲なんて、よく知らない曲名も出てくるのだが、音の良し悪しは別にして検索するとだいたい音源が出てくる。便利な時代になったものだ。
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初期の歌謡曲を支えた古賀政男、藤山一郎、東海林太郎などの評伝を書いてきた著者が、昭和初期の“レコード歌謡”の誕生から20世紀末のJ-POP全盛の時代までを、各時期を代表する歌と社会の情勢とをなぞりながら概観した、日本近現代史の一側面としての書
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諺に「歌は世に連れ、世は歌に連れ」というのあるが、本書はポップスや歌謡曲がその世相や経済状況を反映してきたという歴史を記録している。 但しテーマの性格上、扱う歌を実際に聴いてみなければ内容をわかる事は出来ない。
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