昔の人 今の状況 の商品レビュー
近代化と文化のアイデンティティについて 有史以来、日本はかつて一度も外国に侵略されたことがない地球上でほとんど類例がない特殊な国だ。この歴史的・地理的好条件があったからこそ、つまり侵略されたことがないからこそ、逆に主体的(表面上は)に諸外国の文化・技術・社会制度をある種破廉恥...
近代化と文化のアイデンティティについて 有史以来、日本はかつて一度も外国に侵略されたことがない地球上でほとんど類例がない特殊な国だ。この歴史的・地理的好条件があったからこそ、つまり侵略されたことがないからこそ、逆に主体的(表面上は)に諸外国の文化・技術・社会制度をある種破廉恥なまでに取り込むことができたのだ。この誠に稀有な特性が雑多な文化の共存と充溢を可能ならしめた。 日本人が自国の文化に対して、安心に基づく無自覚的な自信をもってきた基本的な理由の一つはこの国の住民が単一の民族から形成されている顕著な事実にあると著者はいう。 日本の近代化は、1868年、明治の革命を起点とする。すすんで伝統的な文化を放棄し、西洋文明を学び取ろうと決意したのだ。近代化とは西洋化と同義である。世界史上稀に見る速度での近代化成功理由の一つとして宗教の力の弱さが挙げられる。これは徳川期に着々と準備されていた下地であった。いまひとつは封建制の完成である。これよりそれぞれの分野で活動し得る要員があらかじめ準備されていたという。「寺子屋」制度による識字率の大幅な向上も注目すべき点だ。 上述のような好条件の上に、近代化が速やかに推進された最大のものは徹底的な身分制度の撤廃である。身分的平等が圧倒的な国民のエネルギーとなった。これを無視しては、日本の近代化は考えられない。 とはいえ、近代化によって文化の問題が解決しなかった。文化的アイデンティティは近代化の課程でその構造上、必然的に喪失されざるを得ない。 しかし、その喪失経験が伝統文化への意識をかえって際立たせている面もある。世界文化への貢献という視点を取り入れながら、その臨界点を見出すことが私たちの世代の責任である。
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