湯浅泰雄全集(13) の商品レビュー
『和辻哲郎―近代日本哲学の運命』(ミネルヴァ書房、ちくま学芸文庫)のほか、和辻にかんする論考等8編を収録しています。 『和辻哲郎―近代日本哲学の運命』は、日本を代表する倫理学者として知られる和辻哲郎の生涯と思想を包括的に論じた本です。著者は、和辻の思想の特徴と限界をきわめて冷静...
『和辻哲郎―近代日本哲学の運命』(ミネルヴァ書房、ちくま学芸文庫)のほか、和辻にかんする論考等8編を収録しています。 『和辻哲郎―近代日本哲学の運命』は、日本を代表する倫理学者として知られる和辻哲郎の生涯と思想を包括的に論じた本です。著者は、和辻の思想の特徴と限界をきわめて冷静な眼で見きわめ、その思想を日本近代思想史の内に明確に位置づけています。 著者は、非西洋国家が近代化に向けて国民意識を統合するにさいして、民族の文化的伝統に訴える手段をとる例が多く見られると述べています。そうした政治的現実のなかでは、自国の文化の価値と特殊性を強調する「文化的ナショナリズム」は、「政治的ナショナリズム」に利用されることになります。そして著者は、和辻が個人的には極端な国粋主義に嫌悪を表明していたにもかかわらず、彼の「文化ナショナリズム」の立場も「政治的ナショナリズム」へと取り込まれてしまったことを明らかにします。 また著者は、非西洋国家の知識人の多くが、自国文化とヨーロッパ文化を対比するという思考パターンを示していることに触れています。彼らの学問的教養の多くは西洋文化であり、その精神的態度は欧米志向が強いと著者はいいます。日本が近代化していく過程にもこうした傾向は見られ、和辻も『風土』において他のアジア諸国の文化にほとんど注意を払っておらず、「ヨーロッパ対日本」という狭い図式の中で議論を展開していました。 ただし著者は、こうした理由をあげて和辻を断罪しているのではありません。近代日本国家が形成されつつある時代に生きた和辻という人物の思想の変遷を、ある近代日本の知性がたどった軌跡としてえがいています。
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