自由な顛落 の商品レビュー
人はいつ、自由を失って、ただ落ちゆくものとなるのだろう? W.ゴールディング著、『自由な顚落』を読みました。ゴールディング氏の作品を読むのはこの本で3作目になりますが、やっぱ読むのに骨が折れます。抽象的でもシェイクスピアのような響きのある文章で語られているのは人間の闇の部分なので...
人はいつ、自由を失って、ただ落ちゆくものとなるのだろう? W.ゴールディング著、『自由な顚落』を読みました。ゴールディング氏の作品を読むのはこの本で3作目になりますが、やっぱ読むのに骨が折れます。抽象的でもシェイクスピアのような響きのある文章で語られているのは人間の闇の部分なのです。 さて、この『自由な顚落』は、自由を失って、ただ原因と結果のみにだけ流されてゆく落ちてゆく"fall"だけの人間になったのはいつからなのかを突き止めるために、画家である主人公、サミュエル・マウントジョイが幼年期から現在までを回想する物語です。 私たち誰もが自由を選択によって勝ち取ります。でも、いつからか私たちはその選択を誤り、誤った選択の結果からさらにまた選択をすることによって自由を失ってゆきます。ここでいう自由とは行動の自由じゃなくって、無垢を失って罪を知り、そして自覚するけれどそれに対して反論を抱くことをしなくなった状態、つまり、人間の救いのなさの状態のことを言ってるのだと思います。 「どこかで、いつか、ぼくは自由のうちに選択し、自由を失ったのだ」 主人公の回想は時系列が滅茶苦茶で、摘み上げてはおおよその場所に置いて、そうしたものを繋げていくパズルみたいに読み進めていかなくちゃなりませんでした。印象的だったのは、既に自由を失った主人公が、無垢なままの内気なビアトリス・アイヴァと恋を語り、そして彼女を捨てるくだりと、科学教師ニック・シェイルズとの会話です。ビアトリスの繊細な神聖さとたばこの煙の染みた指を持つような主人公との対極が読み進めるうちにどう色濃くなるのか興味津々でした。ニックとのやり取りも、楽観的合理主義のニックと、その対極を選ぶ(林の中の水源で泳いだときに最終的に選ぶ)主人公とのコントラストの移り変わりが難解なこの物語に幾らか解いを与えてくれたような気がしました。 ゴールディング氏の物語は聖書の知識がかなり必要だと『可視の闇』を以前読んで思ったのですが、思ったほかいらなかったです。落下を選ぶ主人公に影響を与えたミス・プリングル(聖書の教師)とのやりとりで必要なくらいです。でも、よく耳にするようなことなので、読み進めるのに予習は必要ないかと思います。モーセと燃える棘の話とかが出てきただけかな。 ゴールディングファンなら薦めるけど、初めてこの作者の本を読む、ってな人にはお薦めしません。『蠅の王』読んでください。ゴールディング氏がどんなフィーリングの作品を書くか分かります。ちなみに、処女作です。またまたちなみに、W.ゴールディングは1983年にノーベル文学賞を受賞を受賞しました。
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