河合隼雄著作集 第Ⅱ期(11) の商品レビュー
『日本人の心のゆくえ』(1998年、岩波書店)と『日本文化のゆくえ』(2000年、岩波書店)を収録しています。 『日本人の心のゆくえ』と『日本文化のゆくえ』は、いずれも著者自身の臨床体験や同時代の事件などを題材に、現代の日本が直面している心の危機について著者が自由なスタイルで語...
『日本人の心のゆくえ』(1998年、岩波書店)と『日本文化のゆくえ』(2000年、岩波書店)を収録しています。 『日本人の心のゆくえ』と『日本文化のゆくえ』は、いずれも著者自身の臨床体験や同時代の事件などを題材に、現代の日本が直面している心の危機について著者が自由なスタイルで語っているエッセイです。父性を重視しキリスト教の大きな影響のもとにある西洋社会と、母性を重視し多神論的な信仰をもつ日本社会を対比し、非西洋諸国のなかでいち早く近代化を遂げることに成功した日本が、いま大きな矛盾を抱えているのではないかという著者の考えが論じられています。 『母性社会日本の病理』(講談社+α文庫)などでこれまでくり返し語られてきた著者の日本文化論の応用編ともいうべき内容ですが、正直なところ、個人的には既視感を覚える内容で、新しい刺激を受け取ることはできませんでした。 ただ、本書を読んでひとつ気づかされたことがあります。それは、著者の日本文化論はあくまでも現代のアクチュアルな問題に対する臨床的な対策として読むべきであり、抽象的な文化的本質主義としてとらえるべきではないということです。そうした意味では、具体的な問題にそくして著者の考える日本的な心理の特徴と問題点が論じられている本書こそ、著者の考えをもっともよく示しているものとしてとらえなければならないのかもしれません。
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