古惑仔 の商品レビュー
救いのない物語。6つの短編で構成されているが、全てが救いのない話。ハッピーエンドの物語が一つもなく、後味も悪いのだが、何故か馳星周の文章には惹きつけられてしまう何かがある。 ①鼬 惚れた売春婦のバックにいる上海マフィアの男を殺し、一緒に売春婦と逃げようとする武。しかし、殺す...
救いのない物語。6つの短編で構成されているが、全てが救いのない話。ハッピーエンドの物語が一つもなく、後味も悪いのだが、何故か馳星周の文章には惹きつけられてしまう何かがある。 ①鼬 惚れた売春婦のバックにいる上海マフィアの男を殺し、一緒に売春婦と逃げようとする武。しかし、殺すこともできず、他の流亡にそのマフィアの男が殺されるのを目にし、怖くなってその場を逃げ出した。 逃げ込んだ薄汚い路地で鼬を見つける。鼬は圧倒的に美しかった。自分のように最悪な人間でも最高に美しいものを破壊できるのだと鼬の目を目がけて引き金を引いた。 ②古惑仔 日本のヤクザの親分の娘をガードすることになったチンピラの家健。ボスの車を運転しているところに、敵対する組織がやって来て、命乞いするも青龍刀で首を斬り落とされた。 ③長い夜 日本人の涼子は、面倒見が良く、外国人の友だちがたくさんいる。二ヶ月前、喧嘩別れしたミーナよ具合が悪く、助けて欲しいという。ピザのないミーナは保険証もないので、病院に連れて行けない。 診せるならば、保険証の必要のない闇医者だ。しかし、闇医者はやたらと金がかかる。最近、中国からやってきた医者がいて、その医者は安く診てくれるという。 医者の居場所をマフィアのボスに教えてもらいに行く。教えるかわりにパスポートをよこせと言われ、犯罪に使われるとわかっていながらも、仕方なく渡し医者に診せるとガンと告げられる。涼子は友だちと一緒に金を出し合い、ミーナを病院に連れて行こうとするが、すでに冷たくなっていた。 ④聖誕節的童話 働き者の一方は、日本でウエイターをして働き、中国では稼げないほどの金を稼いでいた。恋人を日本に呼び寄せ、2人で働き、稼いで素敵な未来を夢見ていた。 恋人には水商売をさせたくないと言い、ウエイトレスの仕事をあてがった。やがて入管の捜査があるからと、2人は馘になった。 そこから2人は落ちていく。一方は博打に狂い、借金を作り強盗をするようになる。強盗された女性がマフィアに訴え、莫大な金を請求される。恋人に体を売って金を作るようになる。やがて恋人は薬漬けになる。 もう一度、恋人とやり直そうと、マフィアが絡むパチンコでバカ勝ちしているところを捕まり、金を請求され、最後の頼みの恋人に電話をするも見捨てられる。 ⑤笑窪 日本料理の職人の良は、女に騙されクレジットカードの金を全部奪われた。その女には笑窪があった。 仕事をしていると、馴染みの客の佐藤が3人の女を連れてやってきた。女たちはカジノのディーラーだと言う。その中の一人、メグが気になるようになった。メグには笑窪があった。 佐藤に頼み、一緒にカジノに行った。そこではツキに恵まれ勝った。金を払えばディーラーの女を連れて帰れるというので、メグを連れて外に出た。酒を飲んで飯を食べ、メグを抱いた。 それから週に一度、カジノに通うようになる。その度メグを連れ出し抱く。カジノに通うにつれ、借金が増える。やがてカジノ側から金を貸すと言われ、大きな借金を背負う。 客の男に佐藤の噂を聞く。借金をチャラにする代わり、知り合いを引っかけ、カジノに借金をさせるというのだ。良は佐藤とメグに騙されていたことを知った。 警察にカジノのことを密告し、そのことをメグに伝える。次の日カジノの男たちがアパートにやって来て包丁で刺すと、良も刺される。 ⑥死神 阿扁は死神だ。阿扁に会いたいと言う友だちに会うと、友だちらはその後すぐに殺された。みんな流亡だった。 5年前、阿扁は仲間たち15人で日本に渡ってきた。やがてそのうち6人が死んだ。 これから故郷に帰るという友だちの送別会で残る者たちが集まった。一番良い仕事をしていると思われた阿扁だが、実は勤め先の社長に金を騙し取られていた。この送別会の前に、その社長一家を殺していた。 最後にその告白をし、みんなの前でこめかみに銃を当て引き金を引いた。 こうして簡単な粗筋を書いただけでも気が滅入るような内容ばかりだが、何故か不思議な魅力がある。 これからも馳星周をやめられそうにない。
Posted by
相変わらず救われない話ばかりだか、読後に残るなんとも言えない切ない感じが、逆に今日も頑張っていこう!という気になる。(なんでやろ?)聖誕節物語と死神が、切な過ぎてgood!
Posted by
馳星周の【古惑仔(チンピラ)】を読んだ。馳星周は僕と同じ北海道出身の作家だ。 【不夜城】シリーズは映画にもなったし、目にした事がある人もいるだろう。3部作の【不夜城】は【鎮 魂歌】【長恨歌】の3部作で完結する超大作だ。もちろん3作とも読んだ。その他にも【夜光虫】と【漂 流街...
馳星周の【古惑仔(チンピラ)】を読んだ。馳星周は僕と同じ北海道出身の作家だ。 【不夜城】シリーズは映画にもなったし、目にした事がある人もいるだろう。3部作の【不夜城】は【鎮 魂歌】【長恨歌】の3部作で完結する超大作だ。もちろん3作とも読んだ。その他にも【夜光虫】と【漂 流街】を読んでおり、今回で馳星周を読むのは6作品目となる。 正直、どれもあまり気持ちのいい作品ではない。新宿歌舞伎町のアンダーグラウンドを舞台とした作品が 多く、共通するのは「中国マフィア」。任侠チックなものが好きな僕でもその内容はかなり重たい。 この類の作品はアクセントとしてたまに読むのがベストだろうと思う。好き好んで毎日読んでいたら、間 違いなく気が滅入るし怪しくなる。6冊でも多い気がしないでもないが、本棚にある120冊の中の6冊 ならまだ許容範囲ではないだろうか。僕も正気を保っているし。 さて、この【古惑仔】だが、例に漏れず新宿歌舞伎町やら中国マフィアやらがてんこ盛りの短編集だ。 とにかく突っ走る。闇に向かって。絶望に向かって。ことある事に繰り返される「呪詛」と「殺意」。笑 いなどは一切なし。そこまで絶望しなくてもいいだろう、と読んでいるこちらが眉間に皺を寄せて唸る始 末である。なのになぜ読んでしまうのか? それは、きっと馳星周が描く世界が、一歩踏み込めば、誰にでも起こり得る隣り合わせの世界であり、誰 もが心の奥底に秘めているであろう感情の世界であるからだと思う。 今の若者にみられる傾向だと思うことで、「本当の怖さを知らない」という事がある。「ワル」がカッコ いいという風潮。「まじめ」はバカ臭いという風潮。僕は気になって仕方がない。馳星周が教えてくれる 世界はそんな中途半端なものではない。興味本位でワルを気取り、黒社会に首を突っ込んだ挙句、取り返 しのつかないことになってしまうという事。「危ないからもうやめた」なんて言い分は通用しない世界。 振り返れば常に「死」がつきまとう。小説の中だけではない。こんな世界はどこに行っても必ずある現実 の世界なのだ。気付かずにハマってしまう前に「小説」という世界で勉強できることに感謝しなければい けないと思う。 話は戻るが、馳星周の文章はとてもスピード感がある。緊迫した場面になるにつれ、文章が短く細切れに される。徐々にスピードアップしていく文章は読んでいて引き込まれてしまう。まさしく待ったなしの世 界。「目をそらせばこっちが殺られる」そんな感じだ。 残虐なシーンも多いので、興味を持った人には心して読むことを忠告したい。 笑いのない小説であるが、最後の最後で僕は思わず笑ってしまった。しかも作品とは関係のないところ で。それは、巻末に記載されているこの【古惑仔】に収められた作品の初出一覧を見てだ。一作品を除い てすべて「問題小説」という媒体が初出である。残り一つは「孤狼の絆」という媒体。「問題小説」そん な媒体があったなんて知らなかったが、確かに馳星周の世界は問題小説であるだろうと思う。
Posted by
短編だとどうしても背景や説明が限られるので、主人公たちに感情移入しにくいというか。 暴力とか堕落とか絶望とか、そういうのはやっぱ人間ドラマに織り込まれててほしいというか。
Posted by
- 1