やさしき夜の物語 の商品レビュー

円地文子(著者)

2016/11/15

ふとした折りに読み返したくなる本です。
そして、読み始めると頁を捲る手が止まらず一気に読了。
背表紙の粗筋では一人の貴公子(大納言宗平)をめぐる二人の姉妹の恋の物語となっています。
でも私はこの物語の真の主役は、姉の夫である宗平と道ならぬ恋の末に秘かに子を産み、更に二人目も宿していると知りながら綾の姫を後妻に迎え心から慈しむ関白高峰だと思うのです。
彼の言動の端々に滲み出る、年を重ねているからこその落ち着きや穏やかさ、懐の深い愛情･･･精神的に成熟したその姿は何度読んでも非常に魅力的に映ります。

2013/04/20

古典作品「夜半の寝覚」を基にして、主に現本が散逸した部分を膨らませて書かれた小説。「夜半の寝覚」は古文で習う文学史情報くらいしかなかったので、楽しみに読んだ。
平安ものだから仕方ないとはいえ、序盤、宗平の態度には随分いらいらした。だから、作中で高峰を思いやった結果宗平への態度を改める綾姫に、胸がすくような気分になった。読みながら時代も国も違うのに、頭に浮かんだのが「クレーヴの奥方」。あの作品で「妻」に対して一生片恋で終わってしまったクレーヴ殿が私にとって一番共感できた人物だった。高峰は私にとって「想いが報われたクレーヴ殿」なのかもしれない。
散逸されている原典ではどんな風に描かれていたのか、読めないと分かりつつも気になる。

2011/11/07

「夜半の寝覚」をベースに書かれたお話。
現存する前半部分の関白高柳が、
若い綾の姫と大納言の過ちを知りつつ、
穏やかな大きな愛情で見守る、
やさしい話に仕立てている。
喪失した後半部分には、
もっとどろどろした話があるようだが、
円地文子はあえてそこまで書かずに、
ただやさしいだけの話で終えている。

刺激の強さに食傷気味のときに読むにはよい。