文章読本さん江 の商品レビュー
谷崎潤一郎をはじめとして錚々たる著者たちがこれまで刊行してきた「文章読本」とは、いったいなんだったのかということを検討している本です。 著者の文学批評の本領は、『妊娠小説』(ちくま文庫)などのフェミニズムの観点に立ってなされたものといえるように思います。それらの仕事は、文学とい...
谷崎潤一郎をはじめとして錚々たる著者たちがこれまで刊行してきた「文章読本」とは、いったいなんだったのかということを検討している本です。 著者の文学批評の本領は、『妊娠小説』(ちくま文庫)などのフェミニズムの観点に立ってなされたものといえるように思います。それらの仕事は、文学という「制度」に批判のメスを入れるというしかたでなされていましたが、本書でも同様の方法にもとづいて、「文章読本」が文学という「制度」に依存するとともにそれを再生産する役割を果たしてきたことが暴かれます。さらに著者は、明治以来の作文教育の歴史をたどり、谷崎の文章読本が登場する背景を明らかにしています。 巻末には、高橋源一郎、山崎浩一、石原千秋、中条省平の四人による、本書に対する書評が収録されています。この四人はいずれも「文章読本」に類する内容の本を書いているのですが、なかでも石原は受験現代文という「制度」の内実を明らかにする仕事をおこなってきたという点で、著者に近いスタンスに立っているように思います。さらに高橋も、文学という「制度」とその外部の境界に身を置きながら文学をたのしむというスタンスを示しています。こうして見ると、谷崎以来の文章読本と、著者の文章読本批判とのあいだに断絶は存在せず、連続的なスペクトルをかたちづくっていることが見えてくるように思われます。 「制度」批判は、まさしくそれが「制度」に対する批判であるというしかたで「制度」に依拠していることは、むろん著者自身もよくわかっているはずで、そうした構図のなかに入ることで優れた批評的実践が可能になることをみごとに示しているのが本書だといってよいでしょう。
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良書とは、自分がうっすら疑問に感じていたことを明快に解説してくれる本。 やはりそうですよね斎藤先生、と言いたくなるような解釈と論拠、さすがである。 谷崎、三島の文章読本をはじめ、気持ちいいくらい名著と言われてきた本たちを一刀両断にしていく。 いつか読もうかと本棚に置いてあった...
良書とは、自分がうっすら疑問に感じていたことを明快に解説してくれる本。 やはりそうですよね斎藤先生、と言いたくなるような解釈と論拠、さすがである。 谷崎、三島の文章読本をはじめ、気持ちいいくらい名著と言われてきた本たちを一刀両断にしていく。 いつか読もうかと本棚に置いてあった谷崎、三島の文章読本も、ようやくもういいかなと吹っ切らせてくれた本。
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巷間に溢れる「文章読本」の類を、その広範な資料の精査から歴史的に吟味し、その意図するところが奈辺にあるのかを暴き出している。快著である。
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笑い飛ばせる部分と、謎解きに当たる部分と、それぞれ巧みだなあというのが率直な感想。 嬉々として、文章の真髄を下々に授けようと力む「サムライ」たちが、ついついウンチクを垂れてしまう理由が、歴史を背景にして語られてしまう。その料理のされっぷりが気の毒なところと、背景の分析が勉強にな...
笑い飛ばせる部分と、謎解きに当たる部分と、それぞれ巧みだなあというのが率直な感想。 嬉々として、文章の真髄を下々に授けようと力む「サムライ」たちが、ついついウンチクを垂れてしまう理由が、歴史を背景にして語られてしまう。その料理のされっぷりが気の毒なところと、背景の分析が勉強になるところと、この二点が本書の白眉。
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某氏にいただく。2002年刊、文庫化は2007年。こんなおもしろい本があるとは知らなかった。自分が清水幾太郎ー本多勝一路線にあることがよくわかった(もっと言えば、「わかりやすく書けないならば、豆腐の角に頭をぶつけて死んだ方がまし」という分析哲学の末裔でもある)。 貴族高踏名文派と...
某氏にいただく。2002年刊、文庫化は2007年。こんなおもしろい本があるとは知らなかった。自分が清水幾太郎ー本多勝一路線にあることがよくわかった(もっと言えば、「わかりやすく書けないならば、豆腐の角に頭をぶつけて死んだ方がまし」という分析哲学の末裔でもある)。 貴族高踏名文派と民主シンプル派との階級闘争という対立図式を明確にした第一部と第二部が圧巻。ここまでを読めば文章の勉強用にもなる。ただ、その背景説明を明治にまで戻ってやっている第三部と第四部はまあ時間があれば読めばよい感じ。 この手の本だから指摘しておくが、82頁の「精神状態を類推すると」の「類推」の使い方がおかしい気がする。「推測」でよいのではないか。 る)。
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なるほどごもっとも。確かにそうだ。いろんな文章読本を読んでいて漠然と感じていたことをズバリ言い当てている。痛快。階級闘争に持ち込んだところは素晴らしい。 でもそれは最初だけ。終始揶揄。からかいの連続。スパイス程度に出てくれば、権威へ矢を射るようで痛快だが、絶え間なく聞かされると悲...
なるほどごもっとも。確かにそうだ。いろんな文章読本を読んでいて漠然と感じていたことをズバリ言い当てている。痛快。階級闘争に持ち込んだところは素晴らしい。 でもそれは最初だけ。終始揶揄。からかいの連続。スパイス程度に出てくれば、権威へ矢を射るようで痛快だが、絶え間なく聞かされると悲しくなってくる。とにかく目に見えるもの、耳に入るもの全てを揶揄する。読み続けるのが次第に苦痛になってきた。ユーモアも嫌味に変わってくる。 それでも最後まで読み通したのは何がいいたいのか知りたかったからだ。これだけ罵詈雑言を並べるだけでは終わるまいと期待したからだ。御高説ごもっともの連続なので本当に期待した。 結論は月並み。というかケースバイケースですよね、と主張のない、その場を丸く納めるための結論。これだけ文章読本を罵倒しておいて、最後の数ページだけ自分も御高説を垂れる。しかも逃げ場を作っておく。だってケースバイケースですもの。 文章読本の歴史を文章会の階級闘争の歴史で終わらせておけばよかったのに、自ら読本してしまった。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
【引用】 ・衣装が身体の包み紙なら、文章は思想の包み紙である。着飾る対象が「思想」だから上等そうな気がするだけで、要は一張羅でドレスアップした自分(の思想)を人に見せて褒められたいってことでしょう? ・「文は服である」のアナロジーでいえば、「名文」ならぬ「ウケる文章(衣装)」を目指してみんながコスプレに励む、そんな時代になったのかもしれない。
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「文章読本」を皮肉っている本。 ドヤ顔で「文章たるもの」を語っている本を、こうして面白く分類して冷静に突っ込みを入れられてしまうと、その威厳がかえって黒歴史的な恥ずかしさに変わるだろう。「良い文章とは」という歴史も知ることができた。 まともな「文章読本」の人たちも自分の経験的エ...
「文章読本」を皮肉っている本。 ドヤ顔で「文章たるもの」を語っている本を、こうして面白く分類して冷静に突っ込みを入れられてしまうと、その威厳がかえって黒歴史的な恥ずかしさに変わるだろう。「良い文章とは」という歴史も知ることができた。 まともな「文章読本」の人たちも自分の経験的エッセイやお気に入り文集などにしないで書けばいいのに。 わたし谷崎潤一郎の文章読本好きですが・・・
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面白かったねぇ。 今度から「面白い文芸評論なあい?」と聞かれたら『文章読本さん江』にしよう。そうしよう。 「文章読本」から連なる文章指南のジャンルを考察した上、日本の作文教育、明治時代からの国語教育の変遷まで含めて網羅検証した一大評論。評論、本当はここまでやらにゃあい...
面白かったねぇ。 今度から「面白い文芸評論なあい?」と聞かれたら『文章読本さん江』にしよう。そうしよう。 「文章読本」から連なる文章指南のジャンルを考察した上、日本の作文教育、明治時代からの国語教育の変遷まで含めて網羅検証した一大評論。評論、本当はここまでやらにゃあいかんのです。ここまで綿密に、シビアに、面白きこともなきジャンルを面白く。記号論なんか絡まなくてもここまで面白く出来る! やーいやーい! と私怨のようなものも混じりつつ。 読めば面白いし、仕掛けに障るので特に書くこともないが、最終的に提示される結論は、実は江戸時代から続く日本人は誰しも持っていた感覚ではなかったかしらんと思った。 あんがいと古風な結論に落ち着いた。
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「文章読本」なる分野の本を読んだ事が無かった(読もうという気がない)ため、いまいち面白さが分からなかった。
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