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雲を掴め の商品レビュー

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11件のお客様レビュー

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2009/10/04

冒頭に「本書はコンピュータ産業の歴史を変えたIBM・富士通秘密交渉の真実に迫る小説です」と断っているけれど、これ、ほとんど事実ですよね?こんなに書いちゃっていいのかな。 「富士通が開発したIBM互換OSはIBMの知的財産権を侵害している」として、1982年にIBMが富士通に抗議...

冒頭に「本書はコンピュータ産業の歴史を変えたIBM・富士通秘密交渉の真実に迫る小説です」と断っているけれど、これ、ほとんど事実ですよね?こんなに書いちゃっていいのかな。 「富士通が開発したIBM互換OSはIBMの知的財産権を侵害している」として、1982年にIBMが富士通に抗議したことに端を発する秘密交渉の内情が、富士通の海外事業部本部管理部長(=筆者?)を主人公として描かれている。なお、富士通は、古河電工とドイツ・ジーメンス社の頭文字を組み合わせた「富士電機」の通信部門が独立した会社だという(p40)。へぇ〜 筆者は1958年に東京大学を卒業したとのことなので、現役合格と仮定すると1935年生まれ。1982年時点で47歳であった。本書刊行(2007年)時点で72歳。 ある日の深夜1時に主人公の自宅に、カリフォルニア州の関係会社に派遣中の部下が電話をかけてくるところから、この「小説」は始まる。 「部長、日立製作所の社員がFBIに捕らえられました」 そのとき主人公は、とっさに(富士通からの)出張者が危ないと直感し、アメリカから日本への出張者と日本からアメリカへの出張者を全員ストップするために奔走する。この瞬時の判断力。冒頭から引き込まれる展開だ。調査してみたところ、富士通のアメリカ駐在員事務所や日本人幹部の住宅の主要な場所にはすべて盗聴器が仕掛けられていたという(p12)。 その後まもなく、富士通はIBMから抗議を受け、会社の存亡に関わる重大な事態に直面する。このとき富士通の顧問弁護士は、 「何かあったら、ごめんなさいと言って50億円くらい支払えば許してくれるでしょう」と述べたという(p53)。 主人公=筆者が「全く頼りにならない。事件の大きさを理解していなかった」と言い捨てたこの顧問弁護士は誰だろう? 富士通側が、サンフランシスコの弁護士から受けるレクチャーは参考になる。 「皆さん、交渉で絶対に弱気を見せてはいけません。鮫を知っていますか。血の臭いを嗅ぐと興奮してさらに獰猛になります。目を伏せてはいけません。いつも相手を睨んでいてください。地面に叩きつけられても立ち上がって挑戦する。アメリカではそういう人が尊敬されるのです。(富士通によるIBM)互換(ソフトの開発)は正しい。互換は正しい、と心の中で復唱してください」(p74) 「交渉で一番重要なことは「公明正大(fairness)」です。日本人が誠意(sincerity)が好きなように、アメリカ人は「フェア」であることを原点に物事を考えます。貿易交渉でも、アンフェアと言われた時には、単なる不公正という意味に取っていては間違います。「卑劣な」という倫理的、道義的な批判を含んでいるのです。ルールとか法律を超えた概念です」(p148)

Posted byブクログ