キスカ 日本海軍の栄光 の商品レビュー
キスカと海軍の気風(阿川弘之) 霧のキスカ救出作戦、何千人もの運命がかかった決死の航海、その克明な記録なのだが、一つ注目すべきは、救出に向かう巡洋艦阿武隈の艦内に、いつも一抹のゆとりと笑ひが見出せることであらう。緊張、不安、多忙な危険作業と同居しているほのかなユーモア。これは、著...
キスカと海軍の気風(阿川弘之) 霧のキスカ救出作戦、何千人もの運命がかかった決死の航海、その克明な記録なのだが、一つ注目すべきは、救出に向かう巡洋艦阿武隈の艦内に、いつも一抹のゆとりと笑ひが見出せることであらう。緊張、不安、多忙な危険作業と同居しているほのかなユーモア。これは、著者の人柄にもよるが、海軍独特の伝統的気風でもあった。「死ぬ時には死ぬんだ。コチコチになるな。自分のデューティーだけきちんと果たせ」ー。そのゆとりが作戦の成功につながっている。まことに感動的な、ほんものの海軍らしい海軍戦記である。 (昭和58年刊) ・キスカ作戦と市川兄ー序に変えて(石田捨雄) ・主計長と航海士ー序に変えて(大賀良平) ・Ⅰ 北邊の護り ・Ⅱ 出撃前夜 ・Ⅲ 反転・帰投 ・Ⅳ 天佑我に在り ・Ⅴ 奇蹟の撤収 ・Ⅵ さらば阿武隈 ・あとがき ところどころ海軍愛に溢れた内容となっている。幸せなことであると思う。主計の仕事ぶりや海軍生活の日常が興味深い。本書によって、ブイ・ツー・ブイの人事異動や引継ぎ、作戦行動中の艦船への赴任(著者の場合、辞令を受けて赴任まで1ヶ月を要したp55)、人事考課表の進達p107、艦内神社での儀式など知ることができる。 逆に、海軍の暗部として、本作戦は「一水戦に一任する」とされていたものがp88、第1次作戦の撤退後、「第一次行動は一水戦司令部に腹がなかった」p148と批判され、次のようなやりとりがあったという。艦隊参謀長「君たちは現在の事態と燃料の現状に対する認識が不足している。このたびの作戦が出来なかったらどうなるか判っているのか」一水戦参謀「判っていればこそ、司令官はひき返されたのです。これは現地にいた人でなければ判りますまい。云々」 結果、第二次行動に際し「キスカ突入の決定は、第五艦隊司令長官が決定する」とされ、多磨に乗艦し、突入まで水雷部隊の直接指揮をとることとなったp156。日本海軍のパーフェクトゲームと呼ばれるキスカ島撤退作戦であったが、現代にも通じる組織の暗部を見せられた気がした。(まあ、艦隊参謀長も上部組織から圧力を受けているのだろうが「腹がなかった」というような批判の仕方はいただけない) 作戦に必要な霧が出なく、撤退を決断したときの「帰ればもう一度来ることができるからな」という木村司令官の名言p140や「この作戦は未だ終わってはいない。俺はキスカの陸上部隊を必ず連れて帰るのだ」p142というセリフは、司令官の孤独さやリーダーシップについて考えさせられる。 また、二年現役士官のつながりが、戦後の経済復興にどのような影響をもたらしたのか、行間に主計同士の強い絆がうかがえ興味深い。
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