佐藤さとるファンタジー全集(15) の商品レビュー
復刊ドットコムより復刊した「佐藤さとるファンタジー全集」。 おかげさまで、20数年がけで全巻そろえることができた。 全16巻で、最後の2冊はさとる氏の「ファンタジー論」と、「随筆集」になっている。 この「ファンタジー論」、子供向けではなく、まさに論文なので、小学生で読んだ時には全...
復刊ドットコムより復刊した「佐藤さとるファンタジー全集」。 おかげさまで、20数年がけで全巻そろえることができた。 全16巻で、最後の2冊はさとる氏の「ファンタジー論」と、「随筆集」になっている。 この「ファンタジー論」、子供向けではなく、まさに論文なので、小学生で読んだ時には全く歯が立たず、今読んでも深すぎて軽く流して読んでると大事なところが全然理解できないので、気合を入れてじっくり読んだ。 さとる氏自身が、物語をどのような過程で創作していくのかを語った部分は非常に興味深い。そこから転じて、ファンタジーとメルヘン、寓話等々の違いとか、世界のファンタジー作家の比較とかになると、ただの読者視点ではちょっとついていけなくなる部分があり、この辺は、作家や、作家を志す人向けに書かれている印象も受ける。 が、ここで言われる「ファンタジー作家に必要な要素」は、そのまま「人間の要素」であるようにも思える。幼少時代の豊かな経験(インプット)と、それを他人に正確に伝えるための文章力(アウトプット)。作家に限らず、欲しいと思っている人は多いはず。あ、でも「謙虚さ」の言及が欠けてる。驕りというものが全く感じられない文章に、お人柄がうかがえる。 自分も、かつてコロボックルシリーズを読んで、「ここまで詳しく話が書けるのは、絶対に実際のコロボックルを知ってるからだ」と信じ込んだ(今でも)。2人の子供も、「佐藤さとるさんが、本当のことを童話のふりして書いた話」と疑わない。(「小人がいたらいいなあ」ではなく、「小人に会えたらいいなあ=「いる」という事実は既成である」と考えさせるのだ)。よくよく考えると、ここまで「本気にさせた童話」は、他にない。自分が話の中に入っていくのではなく、お話が自分のいる現実に出てくる感覚になる。「もし」これが創作だったとしたら、このファンタジー論で語られている物語構成、細部の描写、つじつま合わせ等を完璧にこなす作家の代表格が、佐藤さとる氏なのだな、と思う(でもやっぱり、創作じゃなく事実を書いているんだという気も…)。 そして、さとる氏の他の話にしても、「○○くんに、猫が話しかけてきました」という単純な展開でなく、○○くんが、必ず「なぜ猫が話すのか??」の理屈を解決してから、話が先に進むのが特徴的で、読者を決してごまかしていない点が一貫しており、そこに、ご本人の強いこだわりがあることがこの本を通じて分かる。(そうでない他の「おとぎ話」を批判するのではなく、それらと比較して、「自分はこういう話作りが得意」と分析している)。 私らアラフォー世代っていうのは、モノがあふれる代わりに「心の豊かさ」を失いかけてた世代であるが、童話を読んでた時期というのが、戦争を体験した人たちが作家として大成し、名作を世に送り出していた時期と重なっている。やなせたかしさんのように、悲しみが下地になったヒーローものの童話、松谷みよ子さんのように、子供に対しても暗い描写をぶつけてくる童話など、こういうものを読んで育つことで、「足りないもの」も、ちゃんと補われていたのかもしれない。 とりあえずは、ここに紹介された国内外のファンタジーに挑戦(特に、ナルニアにがぜん興味持った)するのと、「名文を写しまくって文章力を鍛える」の実践をやってみるつもり。
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