銀のシギ の商品レビュー
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風車小屋に住む粉屋のコドリングかあちゃんは、女手一つで6人の子どもたちを育てています。 と言っても多分男の子4人は成人で、娘のドルは18歳、末娘のポルは12歳。 かあちゃんを含めポル以外の5人の子どもは、およそものを考えるということをしない。 けれども男の子4人は働き者で、ドルは…家族でドルだけは怠け者でした。 そのドルが、家族が働いている間に全員のお昼ご飯を食べてしまいます。 怒ったかあちゃんの罵り声が、通りすがりのお嫁さんを探していた王様の耳に入ります。 「何をそんなに騒いでいるのか?」 本当のことを言うのは恥ずかしいと思ったかあちゃんは、ドルが30分で12枷も糸を紡いだと嘘を言い、その働きぶりに感動した王様がドルをお嫁に貰ってしまいます。 ただし、一年のうち11ヶ月は好きに暮らしていいが、最後の一日は糸を紡がないと首を切る、と。 これはイギリスの話なので、元ネタは『トム・ティット・トット』だとわかります。 似たような話はグリムでは『ルンペルスティルツヒェン』、日本では『大工と鬼六』などあるので、誰もがどこかで聞いたような話と思うかもしれません。 でも、大きく違うのはドルの妹のポル。 彼女は黒くて禍々しい小鬼に捕らえられた銀のシギを助けます。 銀のシギとは、月から地球に落ちた王子さまを探しにきた月のお姫様であると、漁師のチャーリーに聞いたポルは、銀のシギを家に連れ帰り、けがを治し世話をします。 一方王様と結婚したドルは、お姫様も生まれ、王様は糸紡ぎの約束を忘れただろうと思いますが、そうは問屋が卸しません。 またしても小鬼の世話になり、一日の猶予をもらった後、ドルはすべてをポルに告白します。 ポルは小鬼を探しに出かけますが…。 という後半が、ファージョンのオリジナル。 しかしこの作品、本当にポル以外はみんなおバカさんです。 特に王様は21歳の若さゆえ乳母のナン婦人に頭があがらず、悪いことをすると「壁を向いて立ってなさい」と怒られるのが日常で、何度説明しても自分の娘を王子だと思い込んでしまいます。 これで女王様(ドル)が賢いならまだしも、この国の行く末が心配になります。 さて、この作品はイギリスのノーフォーク州が舞台になっていますが、ノーフォーク州の説明を脚注で読むと『イングランド東部、北海に面した州。この名は、「北の人々」という意味の古語からきたものという。イギリスの州のうちで面積は一ばん大きく、人口は一番少ない。北風と東風をうけて、気候はきびしい。アングロ・サクソン族やローマ人がはいってくるまえの、古代ケルト族王国の遺跡もあり、古い風習の残っている地方。』とあったので、北海道をイメージしてしまいました。 しかし、実際にイギリスの地図を見たら、茨城県の場合でいうと、ひたちなか市のような位置でした。 さほど北じゃないじゃん!
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ファージョンというと、本の小べや1、2とサブタイトルのついた岩波少年文庫の『ムギと王さま』、『天国を出ていく』が浮かぶ。「銀のシギ」は、こないだ読んでいた柚木麻子の『オール・ノット』で出てきて、ファージョンの本かと図書館で借りてみた。 ▼「ダンプリングって美味しいんですね。初め...
ファージョンというと、本の小べや1、2とサブタイトルのついた岩波少年文庫の『ムギと王さま』、『天国を出ていく』が浮かぶ。「銀のシギ」は、こないだ読んでいた柚木麻子の『オール・ノット』で出てきて、ファージョンの本かと図書館で借りてみた。 ▼「ダンプリングって美味しいんですね。初めて食べました」 四葉さんにおすすめしてもらったファージョン「銀のシギ」という児童小説で知って以来、どんな味がするんだろうとずっと気になっていたのだ。(p.46、『オール・ノット』) 古い本だからか、持ち帰るときに(重っっっ)と思うほど、ずっしり腕にきた。返却期限まぎわに、読みはじめたら面白くて、そのまま読んでしまう。石井桃子の訳文がいい。絵のシェパードは、くまのプーさんの挿絵の人か。 『銀のシギ』は、昔話の「トム・ティット・トット」がベースになっている。(この話は、巻末の訳者あとがきで紹介されている。) こんな話だ。 食いしんぼうで、なまけもの(そして見目うるわしい)娘が、母の焼いたパイをひとりで5つも食べてしまう。そのパイは焼きすぎて固くなってしまったので、しばらく置いておくと「もどる」からと母は言い、娘は(パイが戻ってくるなら、自分が食べてしまってもだいじょうぶ)と思って、ぱくぱくと全部食べてしまった。 母は、置いておくと水分がまわってパイが(柔らかく)もどると言ったのだが、娘は、目の前から無くなったパイがしばらくしたら戻ってくると思いこんだのだ。 うちの子が5つもパイを食べた、5つも、5つも、5つも!と母が歌っていると、その歌を耳にした王さまが「楽しそうな歌だ、もういちど」と所望。娘がひとりで5つもパイを食べたとは恥ずかしくて歌えず、ことばを変えて「うちの子が糸を5枷もつむいだ、5枷も、5枷も、5枷も」と歌う。 1日に5枷も糸をつむげるとは、ぜひお妃になってほしい、1年のうち11ヶ月は好きに遊んで暮らしていい。残りの1ヶ月は、毎日5枷の糸をつむいでもらう。それができなかったら、娘の首をはねる!それでいいかと問われた母は、1年後にはどうにかなるだろうと、それでかまわないと肯い、娘はお妃に。 楽しく遊んで暮らした11ヶ月のあと、娘は麻とともに糸車の部屋に。毎日5枷をつむぐようにと言われ、パイを5つ食べられても、糸をつむげるわけのない娘はしくしくと泣く。そこへ現れた小鬼が、糸をつむいでやる代わりに、自分の名を当てよと言う。1ヶ月の間に小鬼の名を当てられなければ、娘はじぶんのもの! 娘は小鬼から毎日5枷の糸をうけとるが、名前はまったく当てられない。もうあと1日という夜に、王さまとの会話から小鬼の名がわかり、めでたしめでたし。 ファージョンは、この「トム・ティット・トット」の登場人物をもっと増やす。夫亡きあと、粉挽きの仕事に励むコドリングかあちゃんに6人の子ども。4人は息子、2人は娘。18歳の娘ドルは、器量よしだが、ものぐさで怠け者。12歳のポルは何でも知りたがる好奇心旺盛な娘。漁師のチャーリーにいろんなことを教わり、怪我をした銀のシギのケアをするのはこの妹のポル。王さまの乳母や使用人たちのそれぞれの性格もじつにおもしろく描かれる。 5つのパイは、昼ごはん用の12個のダンプリングになり、ドルは半時間のあいだに1ダースのダンプリングを食べてしまう。そのぶん、紡ぐ糸の量もスケールが大きくなって、「半時間のあいだに1ダースの麻糸をつむいだ」となる。王さまに嫁いだドルには、うつくしい赤ん坊ができ、小鬼は「自分の名が当てられなければ、おまえと赤ん坊をもらう」と。あれやこれやとあげてみるも、名前はぜんぜん当たらない。 ここで活躍するのが、妹のポル。チャーリーや銀のシギにも助けられ、ぎりぎりのところで姉の窮地を救う! ファージョンの本は、ものによっては品切れのまま。岩波のファージョン作品集も全て品切れで、図書館で借り出すことになるのだが、昔の造本がえらい重いので、岩波少年文庫あたりで揃うといいなーと思う。その少年文庫も、『ムギと王さま』のほかは品切れなので、再版してほしい。とりあえず、図書館から消えないように、順に借りようと思う。重いけど。 (2023年8月13日了) ※過去ログの「ファージョン」 『ムギと王さま 本の小べや 1』 http://we23randoku.blog.fc2.com/blog-entry-954.html 『町かどのジム』 http://we23randoku.blog.fc2.com/blog-entry-4469.html 『マローンおばさん』 http://we23randoku.blog.fc2.com/blog-entry-4485.html コメント
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近くの図書館においてあって、10年以上誰も借りていないけど、祖母が買ってくれた思い出の本。勇気を出して借りてきた。 幻想的で美しいシギと月の世界、どたばたと騒がしい王様や家臣たち、こざかしい悪魔の存在感、末の妹の行動力、美しいハーモニーになって、生きてることへの喜びが伝わってくる気がする。
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