近代日本の思想家 新装版(8) の商品レビュー
河上肇の生涯と思想について解説している本です。 本書は、マルクス主義の立場からではなく、河上という「求道的精神」の持ち主が、どのようにマルクス主義と出会い、学問と実践にたずさわっていったのかという観点から、彼の生涯をたどっています。 若き日の河上は、「絶対的非利己主義」という...
河上肇の生涯と思想について解説している本です。 本書は、マルクス主義の立場からではなく、河上という「求道的精神」の持ち主が、どのようにマルクス主義と出会い、学問と実践にたずさわっていったのかという観点から、彼の生涯をたどっています。 若き日の河上は、「絶対的非利己主義」という理想的人間像を規範としていました。その後彼は、経済学研究の道に入り、マルクス主義へと向かっていきます。本書は、櫛田民蔵や福本和夫との論争に立ち入り、河上のマルクス主義理解が倫理的な立場からなされていたことや、非弁証法的な思考にとどまっているという哲学上の不備があったことが指摘されています。さらに著者は、京都学連事件によって河上が辞職に追いこまれた経緯や、その後の共産党への入党と検挙、そして晩年の「閉戸閑人」の暮らしぶりを紹介しています。 こうした河上の学問的・実践的経歴をつらぬいているのは、若き日の彼がめざした「求道的精神」であったと著者は主張します。そのうえで、そうした個人の倫理的・宗教的信念は、どのような学問的・政治的世界観とも結びつきうるとして、河上のばあいにはマルクス主義と結合したという見かたが示されています。本書では、河上の心情倫理的なマルクス主義理解の弱点を指摘しつつも、近代日本の知識人があゆんだ精神史の一例として、彼の学問と生涯のユニークな性格を解明しており、評伝として優れた内容になっているように思います。
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