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忘却の河 の商品レビュー

4.4

39件のお客様レビュー

  1. 5つ

    22

  2. 4つ

    9

  3. 3つ

    6

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2019/06/19

「忘却(レーテー)」。それは「死」(タナトス)と「眠り」(ヒュプノス)の姉妹。また、冥府の河の名前で、死者はこの水を飲んで現世の記憶を忘れるという――。過去の事件に深くとらわれる中年男、彼の長女、次女、病床にある妻、若い男、それぞれの独白。愛の挫折とその不在に悩み、孤独な魂を抱え...

「忘却(レーテー)」。それは「死」(タナトス)と「眠り」(ヒュプノス)の姉妹。また、冥府の河の名前で、死者はこの水を飲んで現世の記憶を忘れるという――。過去の事件に深くとらわれる中年男、彼の長女、次女、病床にある妻、若い男、それぞれの独白。愛の挫折とその不在に悩み、孤独な魂を抱えて救いを希求する彼らの葛藤を描いて、『草の花』とともに読み継がれてきた傑作長編。

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2019/12/04

草の花から続けて読んだ、福永武彦作品。 藤代家の主人である「私」の独白に物語は始まり、語り口は彼の家族へ移りながら、ゆっくりと進行してゆく。 愛するということと、愛されていると感じること、其々に家族は苦悩を抱いており、日常と過去がシームレスに展開する中で、いつでも彼らは自分の心を...

草の花から続けて読んだ、福永武彦作品。 藤代家の主人である「私」の独白に物語は始まり、語り口は彼の家族へ移りながら、ゆっくりと進行してゆく。 愛するということと、愛されていると感じること、其々に家族は苦悩を抱いており、日常と過去がシームレスに展開する中で、いつでも彼らは自分の心を探している。 福永武彦の巧みで独特のテンポ持つ文章はとても心地良く、酔いしれながらも読み進めてゆくと、作品を通して深い意識の中に潜っていってしまうような感覚があった。 綿密に練られた全七章からなるその構成は、これ以上無いくらいに読み易く、読後はとても爽やかな気分になれる。無人島に一冊もっていくなら、僕は迷わずこの一冊を選ぶ。現時点で、今まで読んだ本の中での最高傑作。

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2017/11/06

2017年11月再読。 最初の父親=夫(藤代)の独白が一番いい。過去と現在が交互に現れる。現在働いている職場のそばのビルの窓が目のように感じられ、その目が戦死した友人の眼につながっていく。 文学を読んでいる感が存分に味わえる。でも小難しくはない。 最後は父親と娘2人の間の不信感...

2017年11月再読。 最初の父親=夫(藤代)の独白が一番いい。過去と現在が交互に現れる。現在働いている職場のそばのビルの窓が目のように感じられ、その目が戦死した友人の眼につながっていく。 文学を読んでいる感が存分に味わえる。でも小難しくはない。 最後は父親と娘2人の間の不信感や軋轢もそれぞれ解かれ、ハッピーエンドめいている。寒々しい場所に、少しあたたかい風が吹いてきたような読了感。

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2016/11/05

「ふるさと」について考えさせられる本でした。ふるさとはもちろん自分が生まれたところだけど、人によっては人生の深い後悔を置いてきた場所でもある。 母に勧められたこの本、とても良かったです。

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2015/09/22

絶版になったと聞いて、散々捜し求め、やっと入手した本。 以前「草の花」を読んだ時、ひどく落ち込んだ気分になったので 恐る恐る最初のページをめくった。 前作からなんと10年の月日を隔てた288pに及ぶ長編とあって、 文体もかなり現代に近く、読みやすかった。(しかも回りくどくなくね(...

絶版になったと聞いて、散々捜し求め、やっと入手した本。 以前「草の花」を読んだ時、ひどく落ち込んだ気分になったので 恐る恐る最初のページをめくった。 前作からなんと10年の月日を隔てた288pに及ぶ長編とあって、 文体もかなり現代に近く、読みやすかった。(しかも回りくどくなくね(笑)) 著者の想いが伝わってきて、不思議とすらすらと一気に読めた。 藤代家の四人の家族と、周囲の人々のそれぞれの心の動きが 一編ずつ綴られていて、そのあまりにも切ない感情が、読んでいて ひどく辛かった。 主となる登場人物に、「彼」と「僕」、「彼女」と「私」 という微妙な隔たりがあるが、それを行き来するうちに、だんだんとそれらが融合されて 違和感なく一体化する。そんな不思議な文章だった。 藤代氏は過去の罪の深さに押しつぶされながら、生きてきた、いや、 生きながら死んでいたんじゃないかな。 そして妻の死後、自分の子供を身篭ったまま何も言わずに自殺した 最愛の彼女の古里へ行き、そこで冷たい河原の石を拾う。 彼はそして、彼の罪を捨てるため、彼女の許しを得るため、過去と別れを告げるために その石を、掘割へ捨てたんじゃないかと私は思う。 誰の心にもある、誰にもいえない罪。 彼らの幸せはどこにあったんだろう。 おそらく、日々の何気ないところに「幸せ」はあったのかもしれない。 ただ、それを彼らは幸せと感じていたかどうか・・・。 過去のどこで、どうしていれば幸せになっていたのだろう。 著者は後に、クリスチャンとなり、洗礼を受けたらしいが、 人はやはり、「許し」を得たいものなのだろう。 三浦綾子とよく似ている人のようだ。(2003.1.22)

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2015/09/22

悲劇をやさしく包み込む傑作。発想となったのは著者が旅行の途中で見た石見の国波根の海岸の風景なんだそうだ。 「この作品の全体にあの海岸の砂浜に響いていた波に弄ばれる小石の音が聞こえている筈である」 冷たい波に弄ばれて「恋しい、恋しい」と犇めく人たち。読み終わったばかりだがもう一...

悲劇をやさしく包み込む傑作。発想となったのは著者が旅行の途中で見た石見の国波根の海岸の風景なんだそうだ。 「この作品の全体にあの海岸の砂浜に響いていた波に弄ばれる小石の音が聞こえている筈である」 冷たい波に弄ばれて「恋しい、恋しい」と犇めく人たち。読み終わったばかりだがもう一度読みたい。

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2015/04/14

「草の花」よりもこちらの方が好き。この文体は本当に懐かしい。最近はこういう古い文体の作品が失われてしまった。登場人物がみな苦悩、悩み、孤独、暗い過去を抱え、どこにも出口が無く哀しい気持ちになるが、それまでバラバラだった歯車がぴたりとはまって回りだすように、最後に心温まる結末で結ば...

「草の花」よりもこちらの方が好き。この文体は本当に懐かしい。最近はこういう古い文体の作品が失われてしまった。登場人物がみな苦悩、悩み、孤独、暗い過去を抱え、どこにも出口が無く哀しい気持ちになるが、それまでバラバラだった歯車がぴたりとはまって回りだすように、最後に心温まる結末で結ばれる。読了後の幸せな気分と言ったら。登場人物同士の会話に「 」をつけないので読みづらいという声もあるようだが、その技法がまた想像力を刺激し、読者をより深く物語へ入り込ませる。共感できる部分が多々。著者の人間に対する優しい眼差しを感じるこの作品に出合えてよかった。おすすめして下さった方に多謝。

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2013/03/10

福永武彦はいう。 『私がこれを書くのは 私がこの部屋にいるからであり ここにいて私が何かを発見したからである。 その発見したものが何であるか。私の過去であるか。 私の生き方であるか。私の運命であるか。 それは私にはわからない。 ・・・・ 僕は思想なんてものを信じてはいなかったんだ...

福永武彦はいう。 『私がこれを書くのは 私がこの部屋にいるからであり ここにいて私が何かを発見したからである。 その発見したものが何であるか。私の過去であるか。 私の生き方であるか。私の運命であるか。 それは私にはわからない。 ・・・・ 僕は思想なんてものを信じてはいなかったんだ。 ・ ・・・ 生きるということは何のためなのか。 思想のためなのか。人類のためなのか。自分のためなのか。 僕は 思想も人類も自分も信じない。 地球が滅びようと、労働者の天下が来ようと、 僕にとってそれが何だというのだ。 僕の身体が死んでしまえば、それで終わりだ、 ・ ・・ 僕はただすべての人が平等でありたい、 皆が幸福でありたいと望んだだけなんだ。』 いまの私の作業は ここまではいえないが、 私のロールモデル探しが ごつごつぶつかりながら 少しづつ進展していることは 確かで、過去を振り返らない というルールは、 明らかに 破られている。 何か、私は、自分の遺書を書くための準備をしているようだ。

Posted byブクログ

2012/10/24
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

各登場人物がそれぞれ内面に抱えるものを禊いだり理解したり受け入れたりしていく小説です。 中心人物の男性が語る第一章・第七章は特に素晴らしいです。記憶の回路が切り替わる書き方も、彼が抱える苦しみの描き方の深さも。 ただ、個人的には全体的に思ったよりあっさり落着するところに違和感を覚えました(父と娘たちの和解など)。悪くいえば、ややメロドラマ的というか…果たして人間の苦悩とは、ひとつの要素から成り、ひとつのきっかけで解けるようなものでしょうか。 逆にそういう意味で、第一章の苦悩の複雑さは私には訴えるものがありました。ただ、男の罪の意識の根源として、出生にまつわる記憶や戦中の経験も描かれているのに、最後は恋人との出来事に集約されてしまう点は安易に感じてしまいました。

Posted byブクログ

2012/11/18

ストーリーだけの小説なんて読み返したくなるわけないですが、 この本は、人生であと4回は読み返したくなるでしょう。 思想がいい。哲学がいい。表現がいい。切り込み方がいい。

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