【廉価版】戦記ドキュメント 総員玉砕せよ! の商品レビュー
再読のため初読時のmixiレビューより転載。 バイエン占領を命じられた前線支隊の戦記。 随所に軽妙洒脱な水木節でありながら、 下士官たちの戦地での生活、職業軍人たちの思惑など 当時の一介の兵隊たちの生きた素直な戦争を今に偲ばせてくれる傑作。 上等兵に日夜ド突きまわさ...
再読のため初読時のmixiレビューより転載。 バイエン占領を命じられた前線支隊の戦記。 随所に軽妙洒脱な水木節でありながら、 下士官たちの戦地での生活、職業軍人たちの思惑など 当時の一介の兵隊たちの生きた素直な戦争を今に偲ばせてくれる傑作。 上等兵に日夜ド突きまわされる初年兵・丸山はおそらく水木が最たるモデルなのだと思う。 童貞のまま死ぬのは心残りだ、などと下士官仲間と喋っていて、 もしものことがあったら、と互いに遺書を書いて渡し合い、 フとでかいバナナに目が留まって、 「おい、葉っぱかけとけよ。よその分隊のやつが食うからな」 「お前バナナのことになるとものすごく熱心だな」 などというやりとりが物凄いテンポでわずか3ページのうちに繰り出される。 漫画的集約もあろうがおそらく実際にそのような生き死にと俗が地続きな、それこそ動物的ともいえるような生態が垣間見られる。 極限状態では食い物とエロの話しか出てこないのだろう(俺の日常も・・・)。 バイエン支隊全員玉砕の知らせに、後方のラバウル師団は鼓舞された。 が、バイエンには81名の生き残りがいた。 それは「生きてはならないもの」であった。 「虫けらでもなんでも生きとし生けるものは生きるのが宇宙の意志です」 手塚治虫を髣髴とさせる石山軍医はラバウル司令部に命乞いを願い出る。 しかし司令部参謀は彼らに再度玉砕を迫り、石山軍医はやりきれず自決する。 玉砕とは強制死刑にほかならない。奇跡的に生き延びた丸山らも壮絶な最期を遂げる。 これは凄まじい戦場記録であると同時に、水木自身の、戦場で死にきれなかった自分を殺すという作業の貫徹でもあると読めないか。 戦争を生き延びた者たちが歴史の語り部となることは、若者への教訓であるとともに多くの戦友が命じられた「死刑を免れたこと」に対する自責のあらわれにも感じられるのだ。 戦場で死ぬということを楠正成に準えてロマンチックに語る軍人を「狂っている」と表現することは、現在のわれわれには容易い。 だが戦犯を排斥することに少なからぬ後ろめたさを感じる。敢えて戦場に散ることが本望だった軍人もいた。 家族や恋人を思い、あるいは自分のことを思って、死んでも死にきれない軍人もいた。 生き長らえて尚、戦争のために死にきれなかった自分を厭うものもいる。 戦争はどうしても人を儚くさせる。 8月(2007年当時)だから、水木好きだからと安易な気持ちで手にとってみたが、こういう本がコンビニでワンコイン(¥500)で買える国はおそらく日本以外にはない。
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