市場・道徳・秩序 の商品レビュー
たまには教養書も読んでみようと思い、サントリー学芸賞の過去受賞作を眺めていたところ、ちょうどちくま学芸文庫から刊行されている本作を見つけたので、読んでみた。政治にもある程度興味があって、大学でも「政治学概論」を履修していたほどなので、難しいなりにもそれなりに楽しく読めると思ったの...
たまには教養書も読んでみようと思い、サントリー学芸賞の過去受賞作を眺めていたところ、ちょうどちくま学芸文庫から刊行されている本作を見つけたので、読んでみた。政治にもある程度興味があって、大学でも「政治学概論」を履修していたほどなので、難しいなりにもそれなりに楽しく読めると思ったのである。しかし、この選択が失敗であった。著者は晩年「新しい歴史教科書をつくる会」に参画するなど、一般向けの言説や著作で知られた人物であるが、本書の「あとがき」によれば、本作の各章はもともとそれぞれ大学紀要などに執筆されたものであるとのことで、専門家しか読まないような媒体に発表された、ガチガチの学術書なのである。軽い気持で読むには、あまりにも内容が難しすぎて、いちおうは読み終えた現在であってもけっきょくのところは理解できていないと思う。ただ、まったくの門外漢にとってはナゾの数式がひたすら並んでちんぷんかんぷんになってしまう理系の論文とは異なり、基本的には文章を読む能力さえあれば誰でも読み通すことができるのが文系の論文の良いところで、事実、わたし自身もその理解はおぼつかないとはいえ、たとえば幸徳秋水は一般には「大逆事件」の首謀者として知られる反政府的な人物であるが、じっさいの思想は先進的な民主主義を希求しており、それゆえの過激な行動であったということがわかる。教科書では大逆事件なぞはほんの数行で片づけられてしまい、多くの歴史好きにとっても特別思い入れがないかぎりは、幸徳秋水という名前はその事件と結びつけられるのみでしか知られていないが、じっさいには著者が本作において福澤諭吉や中江兆民と並べて論じているように、明治時代を象徴するような啓蒙的な哲学思想の持主であったのである。このような視点を踏まえて考えると、大逆事件やそれに続く大正デモクラシイのもつ意義もまた変わってくると思う。いかにも難しい内容ではあるし、じっさいわたしとしてもどれだけ読むことが困難だったか計り知れないが、明治時代というものに対するパラダイムを変化させるにはじゅうぶんすぎる内容が書かれており、ひじょうに勉強にはなった。ただ、それでもやはり基本的にはおそらく内容の1割もまだまだ吞み込めていないと思われるため、評価はあえて★★★としておいた。これは本作に対する評価というよりは、自分が読み終えたあとの印象である。さすがに理解していなければ、強い印象や深い感想は抱きにくい。
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