オットーと呼ばれる日本人 他一篇 の商品レビュー
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「オットーと呼ばれる日本人」:第二次世界大戦時の共産主義スパイの物語。尾崎秀実どころかゾルゲについての予備知識すら持たずに読んだが、楽しめた。史実といったものではなく、ただ日本を救いたいと願う男の気持ちが印象深い。 「神と人とのあいだ」:二部構成。東京裁判を描いた「審判」は、現在の自分が正しいと感じる事柄が通用しない不条理さがよく描かれていた。その数年後、別の場面と登場人物による「夏・南方のローマンス」で、その気持ちに決着をつけようとしている人々の生き方が印象深い。
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やはりイアン・ブルマ『戦争の記憶』で知った、‘他一篇’(「神と人とのあいだ」)の方に興味があって、買ってあったのだが。 その「神と人とのあいだ」の第Ⅰ部「審判」は、観直したばかりの映画『東京裁判』を思い浮かべながら読んだ。映画の方が10年以上も後の作品だけど、あの映画がまぁまぁ...
やはりイアン・ブルマ『戦争の記憶』で知った、‘他一篇’(「神と人とのあいだ」)の方に興味があって、買ってあったのだが。 その「神と人とのあいだ」の第Ⅰ部「審判」は、観直したばかりの映画『東京裁判』を思い浮かべながら読んだ。映画の方が10年以上も後の作品だけど、あの映画がまぁまぁ忠実な‘ドキュメンタリー’だと仮定すると、かなり‘事実’に即した戯曲と思う。 (因みに『東京裁判』で、確か東条が武藤だったかに「キミまで絞首刑になるとは気の毒なことをした」みたいなことを言ったというナレーションがあった気がしたのだけれど、今回は見つからなかった。) でも「審判」より胸に、というかもっと下、みぞおちのあたりに迫ってきたのは、第Ⅱ部「夏・南方のローマンス」。 最初はよくわからずただ読み進めてたんだけど、鹿野原の「けど、こっちが勝ってたらおれたちも自分を神さまだと思いこんじまうにきまってる」という台詞から、急に惹き込まれ始め。 なぜか、最後の方では涙がつーっ、と(深夜、ベッドで読んでたので、このまま寝たら目が腫れちゃうとか思いながら)… 「あとがき」で、表題作「オットーと呼ばれる日本人」はゾルゲ事件をモデルにしてると知った。 ゾルゲ事件は、うちの父方の祖父(満鉄に勤めていたらしい -_-;)も(ぜんぜん下っ端の方に決まってるけど)その関連で満州から帰国させられたとか、お蔭で伯母などは残留孤児にならずに済んだのではとか、聞いたことがある。 でももっと気になったのは、「夏・南方のローマンス」が、「作者である私に、このまま上演されるのはどうしてもいやだよと叫びかけてきた」ので、「たぶん私の唯一の未上演戯曲となっている」ということ。その経緯は評論集『忘却について』に収録されているそうなので、これも是非読みたい。 やはり文学作品、芸術作品には、‘ドキュメンタリー’とか‘ノンフィクション’と呼ばれるものとは違った重なりを持って、違った深度で、響いてくるものがあるね。
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