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虞美人草 の商品レビュー

3.8

81件のお客様レビュー

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  2. 4つ

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 シェイクスピア『ア…

 シェイクスピア『アントニーとクレオパトラ』では二人とも死んでしまう。アントニーの死の原因には嘘がからむ。小野さんはどうか。藤尾はどうか。そして死という悲劇が訪れるとき、社会は「人生の第一義は道義にあり」、「第二義以下の活動の無意味なることを知る」。「悲劇は喜劇より偉大である」と...

 シェイクスピア『アントニーとクレオパトラ』では二人とも死んでしまう。アントニーの死の原因には嘘がからむ。小野さんはどうか。藤尾はどうか。そして死という悲劇が訪れるとき、社会は「人生の第一義は道義にあり」、「第二義以下の活動の無意味なることを知る」。「悲劇は喜劇より偉大である」と漱石がいう理由である。 真面目になることは悲劇を生み出すこともある。でも悲劇はただ悲しむべき悲劇ではないのだ。そんなことを考えさせられる一冊。

文庫OFF

聡明で、美しく、自由…

聡明で、美しく、自由で、都会的だが俗世から離れ、詩人的に生きる女、藤尾を殺したのは、一体なんであろうか。漱石の「真面目に生きる」という哲学の表明ではなかろうか?「真面目とはね、君、真剣勝負の意味だよ。遺っ付けるの意味だよ。遺っ付けなくちゃいられない意味だよ。人間全体が活動する意味...

聡明で、美しく、自由で、都会的だが俗世から離れ、詩人的に生きる女、藤尾を殺したのは、一体なんであろうか。漱石の「真面目に生きる」という哲学の表明ではなかろうか?「真面目とはね、君、真剣勝負の意味だよ。遺っ付けるの意味だよ。遺っ付けなくちゃいられない意味だよ。人間全体が活動する意味だよ。」

文庫OFF

漱石のモラリストたる…

漱石のモラリストたる1面が表に出た、懲罰的なラストが印象的な1冊です。

文庫OFF

2024/01/31

「草枕」と同じく、とてつもなく難解な地の文。いやぁ、すごいですね。よくこんな文章が書けるものだと感心します。恐ろしい教養です。 それもすごいのですが、なんといっても会話がすごい。登場人物それぞれに何か秘めたるものがあり、自分の思惑に話を持っていこうとするが、相手はそうはさせじ意識...

「草枕」と同じく、とてつもなく難解な地の文。いやぁ、すごいですね。よくこんな文章が書けるものだと感心します。恐ろしい教養です。 それもすごいのですが、なんといっても会話がすごい。登場人物それぞれに何か秘めたるものがあり、自分の思惑に話を持っていこうとするが、相手はそうはさせじ意識的にか無意識にかする。そういったやり取りが、とてつもなくスリリングです。 登場人物の中ではやはり「藤尾」が魅力的です。おそらく漱石としては、藤尾を完全な悪女として描きたかったのでしょうが、思いのほかに筆が進んでしまったのでしょう。欠点があるのも人間らしさとして、また魅力の一つになっています。 その点で、最後の展開は納得がいかないです。浅井が孤堂先生に怒られる場面までは良かったです。その後の展開は作り事めいていて、なんかしっくりきません。おそらく同じように感じる人が多いと思います。 小野さんが孤堂先生のところに行って、ぼこぼこに怒られてへこんでしまい、その後藤尾が小野さんの様子を見て愛想をつかす、みたいな展開だったらめでたしめでたしだったのではないでしょうか。諸悪の根源は小野さんでしょう。 虞美人草は失敗作だという話もありますが、個人的には面白かったです。やっぱり会話シーンですね。全会話が名シーンです。小野さんと浅井とのあの馬鹿馬鹿しい会話ですら面白かった。

Posted byブクログ

2023/11/16
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漢語調の絢爛な文体は漱石の領分といっても過言ではないでしょう。東京帝大の講師を辞め、専業作家となってから書いた初の小説とだけあって、眩暈がするほど難解かつ華麗な文章からは、並々ならぬ覚悟が伝わってきます。 大学卒業のとき恩賜の銀時計を貰ったほどの秀才・小野清三。彼の心は、美しく裕福だが傲慢で虚栄心の強い女性・藤尾と、古風で物静かな恩師の娘・小夜子との間で激しく揺れ動く。彼は、貧しさから抜け出すために、一旦は小夜子との縁談を断るが…。やがて、小野の抱いた打算は、藤尾を悲劇に導く。 「潺湲(せんかん)」「瀲灩(れんえん)」「冪然(べきぜん)」「窈窕(ようちょう)」等々、これは正気の沙汰なのか?という語彙が乱れ咲く万華鏡の世界。その高雅な文体で綴られるのは、意外にも月並みなストーリー。真面目だが内気な青年・小野が、裕福な悪女・藤尾と貧しい乙女・小夜子の間で揺れ動くという安っぽいメロドラマを、「厚化粧」(小宮豊隆評)とも取れる絢爛たる舞台装置で見せられるというのはちぐはぐさ。まずもって人物の造形が平板かつ硬直的で、人間というよりは操り人形が話しているようなぎこちなさがついてまわります。漱石の豊饒な漢籍の素養と、迸る文才を疑う余地はありませんが、その漱石がなぜこのようなありふれた内容の小説を?という疑問を禁じえませんでしたね。

Posted byブクログ

2023/03/12
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漱石の凄まじい教養と文章力に圧倒される。難解な表現は多いものの、軽快な会話劇も同時に展開されていくので思っていたよりスラスラと読み進めることが出来た。 にしても大バッドエンドである。 登場人物がそれぞれに背負っていた業は最後に全て藤尾に押し付けられ、藤尾は死んだ。彼女だけが自己中心的?小野も井上親子も甲野も宗近も糸子も濃淡あれどそれぞれ自己中心的ではないか。優柔不断な上に姑息な手段で縁談を断ろうとした小野、小野の気持ちなんぞ確認もせず東京へ出てきて世話になる気満々の井上親子、分かったようなことばかり並べ立てる宗近(彼がわざわざ時計を壊したのは自分を軽んじた藤尾への憎しみからではないか)……。 それぞれの欠点は問題にもされず、ただ藤尾だけが1人、裁きを下され死んでしまう。面子を潰してプライドも踏みにじるような酷い騙し討ちのような形で。「女の癖に生意気なんだよ」「身の程を弁えろ」という声が聞こえてくるようである。生き残った連中が不幸になりますように。 また、ラストの宗近から小野への説教も極めて凡庸であった。「真面目になれ」とは一体何なのか。そんな説教で人が変わるならこの世の中苦労はしないし、説教如きで変わることのない人間のどうしようもなさや複雑さ、ひねくれぶりを描くのが小説であり、あの程度の説教で小野がさっさと反省して物語が店じまいに入ってしまう辺りがなんとも拙速だった。 結末には大いに不満が残るものの、しかしこの先何度も読み返したい名作だと思う。

Posted byブクログ

2023/01/08
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初めてちゃんと読んだ漱石作品だと思う。正直難しい言葉や表現があり細かいところがあまり理解できていない気がする。人物を把握するのに苦労した。藤尾の唐突な死には驚いた。漱石にも嫌な女とか言われてなんかかわいそう。

Posted byブクログ

2022/11/18
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途中から一気に引き込まれて全部読んでしまった。自分の感覚でいくと、遠距離で、しかも5年も会ってないのであれば、そりゃ気持ちなんて変わって当然だろう、と思う。 ただ、それがいかに無理のある婚約だとしても、人にそれを伝えにいかせるのは小野さんのずるさであって、井上先生がキッパリ怒るのはよかったです。 藤尾さんはプライドが高く、素直じゃないけど、心から小野さんを愛していたようにみえ(それはけして打算ではなく)、プライドが傷ついたから自殺した、ではないと感じました。そして小野さんも藤尾さんの気高さとか美しさに心から惹かれていたのでは。 感じたことは、この時代では結婚って当事者の気持ちより、親の約束や建前だったんだなあということ。 それを当事者が遂行しなければ、当事者以外がそれを正しさだと説いて、遂行させることが美しいとされていたこと。 ストーリー全体に共感は感じないけど、言葉の一つ一つには、共感というか人生の真理をつくものがあると感じ、読み終わったあとも読み返すような良い作品です。 良い言葉メモ。 真面目になれるほど、自信力の出る事はない。真面目になれるほど、腰が据(すわ)る事はない。真面目になれるほど、精神の存在を自覚する事はない。 (中略)口が巧者(こうしゃ)に働いたり、手が小器用に働いたりするのは、いくら働いたって真面目じゃない。頭の中を遺憾なく世の中に敲(たた)きつけて始めて真面目になった気持になる。安心する。

Posted byブクログ

2022/10/10
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宗近君かっこ良すぎる。結婚して! 子供じみた上部の皮を脱ぎ捨てて、真剣勝負をしなくてはいけない。そうして生きれば第二義的なことは全てどうでも良くなる。正か死か、悲劇はそれだけ。骨身に応えた。

Posted byブクログ

2022/09/15

久しぶりの漱石先生。恋愛感情や人間関係の表現の巧みさ、情景描写の美しさがたまらない。夏目漱石の世界に浸れます。 漱石先生が持つ当時の社会や人に対する批判、信条と言ったものがそれぞれの登場人物を通して伺えます。勧善懲悪的な結末で驚きもありましたが、漱石先生の作品の中でもかなり上位に...

久しぶりの漱石先生。恋愛感情や人間関係の表現の巧みさ、情景描写の美しさがたまらない。夏目漱石の世界に浸れます。 漱石先生が持つ当時の社会や人に対する批判、信条と言ったものがそれぞれの登場人物を通して伺えます。勧善懲悪的な結末で驚きもありましたが、漱石先生の作品の中でもかなり上位に入ると言ってもいい面白さではないでしょうか。

Posted byブクログ