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ナラティヴ・プラクティスとエキゾチックな人生 の商品レビュー

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2019/06/04

読みにくいマイケル・ホワイトの本も5冊目。 だんだん難解な概念や文章にも慣れてきて、途中で投げ出してはまたチャレンジするの繰り返しみたいなのもなく、なんとか通読することができるようになってきたかな? もちろんスラスラと意味がわかるわけではないし、ついて行けなくなるところも沢山...

読みにくいマイケル・ホワイトの本も5冊目。 だんだん難解な概念や文章にも慣れてきて、途中で投げ出してはまたチャレンジするの繰り返しみたいなのもなく、なんとか通読することができるようになってきたかな? もちろんスラスラと意味がわかるわけではないし、ついて行けなくなるところも沢山ある。とはいえ、この本は、わたしのツボに一番はまった。 わたしのここ数年の関心は、アイデンティティ問題なんだと思うのだけど、第4章〜5章はほんとピンポイントの関心事。 ナラティヴセラピーの重要概念として、「ディスコース」とあわせて、「エージェンシー」というものがあるが、実のところ、この2つの関係が今ひとつわからなかった。(ホワイトは、エージェンシーの人間主義、自然主義、本質主義的な理解を受け付けないので) が、4章の「ナラティヴ・プラクティスとアイデンティティ結論の解明」を読んで、かなり理解が進んだ。 そのホワイトの理論的なバックグラウンドは、フーコーなんだけど、ホワイトの読み込みはすごい。 フーコーのいわゆる主著は、たとえば「狂気」とか、「監獄」とか、「セクシュアリティ」が社会のなかでどう変化したかという歴史の本になっていて、今、わたしたちが当然だと思っていることが、歴史的に比較的最近のもので、また文化的にも限られた範囲でのものであるというメッセージくらいまで読み取れても、それ以上の思想的なインプリケーションは読み取りにくいことが多い。 フーコーの「権力」の考え方は、権力者とか、なんかのイデオロギーによる上からの強制的な支配というようなものではなくて、わたしたちが自己規律・訓練を通じて、日常生活のなかでミクロ的に使っているものということなので、思想的にはスリリングなのだが、逃げ場がないちょっと絶望的な気持ちになることもある。 が、フーコーのインタビューやエッセーなどを死後に編纂した「思考集成」や「講義録」を読むと、フーコーが考えていたこと、現代社会に対して投げかけていたメッセージがより直接的にわかるようになってきた。 ホワイトがナラティヴ・セラピーの技法を生み出していた当時は、フーコーのそうした文献はまだまだ出始めの時期だったのではないかと思うのだが、ホワイトのフーコー理解は、こまかい文献まで踏まえたものになっているんだな〜。 ホワイトは、フーコーを現代社会に批判的ではあるものの、絶望の思想家ではなく、具体的に現実を変えうる視点をもった思想家として読んでいる。 とくに、第5章の「個人的失敗に対処する」では、83年に行われたアメリカでのインタビューを踏まえながら、「失敗会話」のワークに展開されていくさまが、刺激的である。 ホワイトが基本的なアイディアをフーコーから得ていることは周知であるが、これを読むと、ホワイトがフーコーをかなり具体的なレベルで使用していることがよくわかる。 どんな人生も「エキゾチック」なものなんだ!と思えてくる。 個人的には、「アイデンティティ問題」は、この本1冊で、解決、というか解消の決定打ですね。

Posted byブクログ