アラビアンナイト の商品レビュー
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オリエンタリズムとしての「アラビアンナイト」 -2007.07.07記 異文化の間で成長をつづける物語。この本は新書の一冊だが、その背後には実に膨大な歴史がある。 今日世界の問題である中東の状勢を考える上でも、アラビアンナイトの辿った道は、決して無視することが出来ないだろう。と、 毎日新聞の書評欄「今週の本棚」5/20付で渡辺保氏が評した「アラビアンナイト-文明のはざまに生まれた物語」岩波新書-はすこぶる興味深く想像の羽をひろげてくれる書だ。 著者は国立民族学博物館教授の西尾哲夫氏。2004年に同館主催で開催されたという「アラビアンナイト大博覧会」の企画推進に周到に関わった人でもある。 今日、「アラビアンナイト」を祖型とするイメ-ジの氾濫は夥しく、映画、アニメ、舞台、電子ゲ-ムなどに溢れかえっているが、「それらの大部分は19世紀以後に量産されてきた挿絵やいわゆるオリエンタリズム絵画から大きな影響を受けている。と、著者はさまざまな例証を挙げて説いてくれる。 本書を読みながら、図書館から同じ著者の「図説アラビアンナイト」や04年の企画展の際に刊行された「アラビアンナイト博物館」を借り出しては、しばしこの物語の広範な変遷のアラベスクに遊んでみた。 「アラビアンナイト」もしくは「千夜一夜物語」の題名で知られる物語集の原型は、唐とほぼ同時代に世界帝国を建設したアッバース朝が最盛期を迎えようとする9世紀頃のバグダッドで誕生したとされるが、それは物語芸人の口承文芸だったから、韻文を重んじたアラブ世界では時代が下るといつしか忘れ去られていったらしい。定本はおろか異本というものすらまともに存在しなかったとされる。 アラビアンナイト最初の発見は1704年、フランス人アントワーヌ.ガランがたまたま手に入れたアラビア語写本を翻訳したことにはじまる。 しかしガランが最初に入手した写本には、お馴染みのアラジンもアリババも登場しない。シンドバッドだけが何故か別な物語から挿入されたらしい。アラジンやアリババはガランが別な写本から翻訳、後から付け加えられたという。 これが時のルイ十四世の宮廷に一挙にひろまった。フランスのブームはイギリスへ飛び火し、さらにヨーロッパ全土へと一気にひろまっていく。 著者は本書の序において、「今から300年ほど前、初めてヨーロッパ人読者の前に登場したアラビアンナイトは魔法の鏡だった。 ヨーロッパ人読者はアラビアンナイトという魔法の鏡を通してエキゾチックな幻想の世界という中東への夢を膨らませた。 やがて近代ヨーロッパは、圧倒的な武力と経済力で中東イスラム世界を植民地化していく。現代社会に深刻な問題を投げかけているヨーロッパとイスラムの不幸な関係が出来上がっていった。」と要約してみせる。 或いはまた「アラビアンナイト-千夜一夜物語」とは単なる文学作品というよりも、西と東との文明往還を通して生成されていく一つの文化現象とでも形容できる存在なのだ、と。 ヨーロッパにおける「オリエンタリズム」、いわば初めは正体がわからず畏怖すべき対象であったオリエントが、ヨーロッパによって「文明化」され、ヨーロッパ的価値観という統制可能なフレームの中に収まっていく過程とパラレルになって形成されてきたのが「アラビアンナイト」なのだ、と。 たとえばブッシュに代表される現代アメリカの中東観に関わることとして、 トリポリ戦争の勝利によって独立後の国家としてのアイデンティティを確立したアメリカは同時に「遅れた野蛮な地イスラム諸国」という視点をもってイスラム世界と対立してきた。そこにもまたこの物語が影を落している。ご承知のようにこの物語の大枠は女を毎夜殺害する専制君主の前に引き出された「シェヘラザード」が毎日王に物語を語って聞かせ、ついに王を悔悟させるというものだが、この聡明な知恵をもって野蛮な王を説得する女性のイメージこそ、その後のアメリカのイスラム諸国を野蛮視する視点の確立に合致している。アメリカは、その独立建国以来、今日までこの物語の視点を持ち続けているのである。というあたり、然もありなんと肯かせてくれる。
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説話集『アラビアンナイト』がヨーロッパで再発見されて世界へと広がっていく中で、どのように変わっていったのかに迫った本。 底本がないゆえに新しい物語が次々と加わり変形していく『アラビアンナイト』変遷の歴史を、本書で知ることができます。
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アラビアンナイトを始めとする一千一夜物語が、西洋におけるアジア文化との交流の役割をどのようにして担っているか。オリエンタリズム的視点。
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アラビアンナイトには子供向けのファンタジー、そしてエロティックな宮廷譚という2つの違った印象がありました。この本は千夜一夜物語が1704年にフランスに紹介され、急速に欧州に広がっていったとのこと。そして異国情緒の物語として改筆、加筆されていったこと。元の写本を追いかけることから説明を始めています。アラジンもアリババも最初の写本には登場しないということ。バートン版というものが確かにエロ物語イメージがありますが、英国の外交官であった人の性風俗への興味から出ているというのは、納得です。欧州においてイスラムへの差別意識からアラブにそのイメージを持たせたということは否めないように思いました。現在のキリスト教とイスラムの文化圏の対立を考えるとき、こんなところにもその痕跡があるというのは気がつかなかったことでした。日本における歴史にも宮武外骨、大宅荘一らのジャーナリストが翻訳者として登場するなど、実に意外な展開が面白かったです。
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『アラビアンナイト』のヨーロッパ受容が話のメインになっています。近世・近代以降のオリエンタリズムの交流から「アラビアンナイト」の「発見」、完全なる「千一夜」分の話の発掘、「児童書」「好色文学」としての発展過程が述べられています。そしてまた、江戸以降の日本がこのアラビア文学を受容し...
『アラビアンナイト』のヨーロッパ受容が話のメインになっています。近世・近代以降のオリエンタリズムの交流から「アラビアンナイト」の「発見」、完全なる「千一夜」分の話の発掘、「児童書」「好色文学」としての発展過程が述べられています。そしてまた、江戸以降の日本がこのアラビア文学を受容していった過程にも触れられており、全体的に「アラビアンナイトの受容過程から見た文化交流史」といった内容になっています。ですから、東西文化交流などに興味がある人は非常に参考となる内容ですが、『アラビアンナイト』自体に興味がある人には期待はずれなものになるかもしれません。追記:例えば『詳説 世界史研究』(山川出版社)には、『アラビアンナイト(千夜一夜物語)』がほぼ現在の形にまとめられたのは16世紀のマムルーク末期だと書いているが、この本では、「今」の形は様々な写本をまとめた19世紀のイギリス領インドで印刷された「カルカッタ第二版」だとしている。
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サイードの『オリエンタリズム』の補足として読もうと思ってたんですが、内容はちょっと違う感じでした。アラビアンナイトが西洋の中でどういった役割を果たし、どう変化してきたか。挿絵による比較がとても興味深いです。
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