1,800円以上の注文で送料無料

大洪水の記憶 の商品レビュー

5

1件のお客様レビュー

  1. 5つ

    1

  2. 4つ

    0

  3. 3つ

    0

  4. 2つ

    0

  5. 1つ

    0

レビューを投稿

2020/08/26

何気なく図書館で手に取ったが、何気に素晴らしい一冊だった。 まず前半は、伊勢湾台風のときの住民や建設省現場職員の動き、避難や救助の様子を時系列に追ったもの。 伊勢湾台風の被災体験というものがあまり世の中に見当たらないし、(『体験伊勢湾台風 -語り継ぐ災害・復旧-』なる木曽川下流...

何気なく図書館で手に取ったが、何気に素晴らしい一冊だった。 まず前半は、伊勢湾台風のときの住民や建設省現場職員の動き、避難や救助の様子を時系列に追ったもの。 伊勢湾台風の被災体験というものがあまり世の中に見当たらないし、(『体験伊勢湾台風 -語り継ぐ災害・復旧-』なる木曽川下流工事事務所の内部資料をもとに記述されたものとはいうが)臨場感をもって生々しく記載する様子には十分に引き込まれる。 職員が出張所の窓を抑えて持ちこたえようとする様子。 排水機場から労務員は避難するが一部はさらわれてしまったとのこと、あるいは妻を見捨てられずとどまったこと。 決壊口から意を決して堤内地に流れていったが帰ってこなかった技官のこと。 出張所の建物内に逃げ込んだが畳に行く手を塞がれかけた夫婦。 屋根の上にいたまま家が流れ出して、むこうのほうにオーイオーイと声を掛け合う様子。 堤防以外は浸水し、コンクリートの住宅のみが海のようなエリアに点在し、あるいは浮遊物にまじって魚や牛の死骸がみられている様子。 潮をみつつ、何度も失敗しながら、粗朶沈床で決壊口をふさごうとしたりする懸命な様子と達成時の喜び。等々。。 これを世に出しただけでも、大変な意義深い仕事である。 加えて、その後に語られる、江戸時代よりも前の洪水や決壊の歴史も、なかなかみられない貴重な資料。 1586年の洪水で木曽川はおおきく流路を変えたが、その前後の地震の様子も臨場感をもって描かれ、やはり地震も流路変更に影響を与えたのではないかと思わされる。 家康が清州から名古屋城に引っ越しさせた清州越のことや、尾張藩による木曽川の支配(とりわけ木曽五木の流送のこと)、さらには入鹿切れ等々、この地域の重要な水災害や治水について、バランスよく網羅的に、かつコンパクトに記載されていることに感銘を受ける。 後半につづられる、宝暦前後の治水事業や、木曽三川流域ならではの輪中意識・水防意識や現代におけるその重要性のことなど、ニュートラルかつ的確。木曽三川治水に携わる者必読といってよい。 (たしかに、木曽三川の治水史を語るとか、木曽川は語るとか、重要書物もしっかり参考文献にあがっているし。欲を言えば、主な文献に限らずもっとリストアップしてほしかった気もするが) この著者はこれまでなじみがなかったが、東海三県の地理歴史に関する書物もいくつかあるようで、例えばあとがきにでてくる著書のうち、裏木曽の木曽ヒノキを扱った『日本の歴史を作った森』(ちくまブリマー新書、2006)とかはぜひ読んでみたいと思った。

Posted byブクログ