地図は語る「世界地図」の誕生 の商品レビュー
法隆寺の北室院に所蔵されてきた五天竺図は日本で描かれた現存最古の世界図。仏教が説く世界観を基本的な構図とする。須弥山が世界の中心にあると同時に最も高い山、サンスクリット語のスメール山の音訳である。熊野古道の大峰山中の弥山日本三景の一つ、安芸の宮島もそれに由来する。 天竺で思い出...
法隆寺の北室院に所蔵されてきた五天竺図は日本で描かれた現存最古の世界図。仏教が説く世界観を基本的な構図とする。須弥山が世界の中心にあると同時に最も高い山、サンスクリット語のスメール山の音訳である。熊野古道の大峰山中の弥山日本三景の一つ、安芸の宮島もそれに由来する。 天竺で思い出すのは、澁澤龍彦の遺作『高丘親王航海記』だ。史実に基づく傑作幻想奇譚。貞観7(865)年、平城天皇の皇子・高丘親王が二人の僧と共に唐の広州から海路で天竺を目指し出航する、摩訶不思議な旅の軌跡を描いた作品。股間に鈴をつけられた犬頭人や卵生の女が登場する。本著とは異なるが、この世界観を思い出し、ノスタルジーな気持ちになる。 何故澁澤龍彦を思い出したかと言うと、地図は現実を再現する道具としての役割を持つが、科学技術が未熟な時代にはその忠実度が低く、その乖離を想像で補う必要がある。地図に空想物語が介在する。そして、それこそが、科学で説明できない現象を補う宗教の役割にも通ずる領域である。 例えば、古代バビロニアの粘土板世界図では、新バビロニア王国の編成を円盤内部に経験世界として、円盤外の異域に関しては寛解の彼方にある仮想世界を書いている。この経験世界と仮想世界の対比。仮想世界には、魔法使いや妖怪もいて、聖人と悪魔も同居する事ができた。何故なら、それは人間の空想の共有世界だからだ。 今でこそ、航海や衛星により完璧な地図が出来たが、不完全な地図を生きる。世界の輪郭は既知だが、そこに満たない自分の知識をキャッチアップする現代の人生ではなく、未知の世界を追い求めた人生。航海によるロマンは、その時代にしか得られない。いや、宇宙には、まだ残されたフロンティアがあるが。
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京大の地域研究の学者が書いた本のようです。地図の科学性、実用性、思想性、芸術性の4つの備えるべき要素についてその重要性の変遷などを詳細に書いており、初めから仏教・キリスト教・イスラム教そしてプトレマイオスに代表されるようにギリシャ哲学と、実に思想の本とも言うべき内容でした。それが法隆寺蔵五天竺図、ヘレフォード図、古今華夷区域惚要図、イドリースィー図、プトレマイオス図であり、世界帝国ポルトガルの時代のカンティーノ図の説明になっていきます。この辺りから実用性・科学性が前面に出てくるのですね。地図とは何かを考えさせられる、ちょっと難しい本でした。
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