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砂時計 の商品レビュー

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2014/12/17

客観的な描写(一人称だったり三人称だったり)、手紙、メモ、会話といった異なる手法からなる断章を積み重ねながら、一人の人間E・Sの肖像をぼんやりと浮かび上がらせる。 事実や記憶、物語を再構成して誰かのことを語ることはできるし、よっぽどわかりやすいはずなのに、断片をパラパラと撒き散...

客観的な描写(一人称だったり三人称だったり)、手紙、メモ、会話といった異なる手法からなる断章を積み重ねながら、一人の人間E・Sの肖像をぼんやりと浮かび上がらせる。 事実や記憶、物語を再構成して誰かのことを語ることはできるし、よっぽどわかりやすいはずなのに、断片をパラパラと撒き散らすことで、対象から距離を置いて眺めてはじめてようやく描かれているものがなんとなく判別できるモザイク画のような肖像が最後の最後にほのめかされた瞬間に、立ち上る煙のようにすっと消えるような読後感。 断章ごとの関連や時間軸がわかりにくいし、文脈を把握することも簡単じゃないどころか、何のことを言ってんだかわからないところばっかり。めちゃくちゃ読みづらくて何度も投げ出しそうになったけど、アウシュヴィッツで消息をたったキシュの父親が残した手紙から、暗い時代を生きた父親を文学的に再創造する様は、やっぱり感動的で頑張って読んでよかった。「感動」という強い感情とはちょっと違って「弱々しい希望」のようなもっとずっと今にもたち消えそうな感情ではあるのだけど。 「具体化された一つの生命、それは、神の広大にして永遠な虚無に対する、人間の哀れにも哀しい小さな勝利である。あるいは、少なくともそれは残るであろう。ーーもしすべてが大洪水に沈むとしてもーー私の狂気、私の夢、極光、遠い木霊は残るであろう。誰かがその光を目にするかもしれない。そして、この光、この煌めきの意味を理解するかもしれない。もしかしたら、それは私の息子かもしれない。」

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2014/10/10

[ 内容 ] 強制収容所で命を落とした男の手になる一通の手紙―その手紙の世界・時代を、多様な文体と語りの構成によって、男の息子・作家キシュが再創造する。 [ 目次 ] [ 問題提起 ] [ 結論 ] [ コメント ] [ 読了した日 ]

Posted byブクログ

2014/04/07

困難な経験というものは平易に語りうるものではない。言語を絶する悲劇を言語で表そうとする困難さ、その過剰さを突き詰める事で騙し絵の様にしか描けない悲劇というのもまた存在するのだ。アウシュビッツに連れ去られた父の遺品である1枚の手紙、それを軸として人称も時系列も感覚も分断し、再構築さ...

困難な経験というものは平易に語りうるものではない。言語を絶する悲劇を言語で表そうとする困難さ、その過剰さを突き詰める事で騙し絵の様にしか描けない悲劇というのもまた存在するのだ。アウシュビッツに連れ去られた父の遺品である1枚の手紙、それを軸として人称も時系列も感覚も分断し、再構築されたこの小説は正に小説でしか不可能な方法で、闇夜に広がる仄かな灯の様にじわじわと一つの悲劇を浮かび上がらせる。砂時計をひっくり返す様に何度でもこの物語を辿り直そう。東欧の想像力シリーズ1冊目に相応しい、想像力の臨界点の様な作品だ。

Posted byブクログ

2009/10/04

 アウシュビッツで命を落としたというユダヤ人で作者ダニロ・キシュの父親エドゥアルド。この小説では、その父エドゥアルド(作中ではE・Sと表記される)の人生の一部が、技巧を凝らした語り口で語られます。そして、最後におかれた実在の手紙。歴史的な事実の重みとそれを幾重にもくるんだ迷宮のよ...

 アウシュビッツで命を落としたというユダヤ人で作者ダニロ・キシュの父親エドゥアルド。この小説では、その父エドゥアルド(作中ではE・Sと表記される)の人生の一部が、技巧を凝らした語り口で語られます。そして、最後におかれた実在の手紙。歴史的な事実の重みとそれを幾重にもくるんだ迷宮のような構成。読む人を選ぶ小説かもしれませんが、20世紀文学の最高峰と言ってもいいでしょう。

Posted byブクログ