日本文学の手引 の商品レビュー
分からない単語は意味を類推して何とか大まかに文脈を捉える、というやり方で読書を進めたので、細かい点は理解できないままになってしまった。しかし、キーンさんの読書体験にさほど遠くない私は、本書の大意は呑み込み、才気煥発な記述に大いに感化を受けた。キーンさんは紫式部をひどく持ち上げてい...
分からない単語は意味を類推して何とか大まかに文脈を捉える、というやり方で読書を進めたので、細かい点は理解できないままになってしまった。しかし、キーンさんの読書体験にさほど遠くない私は、本書の大意は呑み込み、才気煥発な記述に大いに感化を受けた。キーンさんは紫式部をひどく持ち上げているが、それは彼女自身に際立った個性が見て取れるためだとしている。そして、中世においてそのような個性が表出した作品がなく、明治に坪内逍遥の小説神髄が出て社会で炸裂し、西洋の影響を受けた作品が相次ぐまで、日本に個性が現れ出ることがなかったと断じている。つまり、本書のテーマの一つが個性であると言ってよい。しかし、私の持論として、個性の追求に付随して、心理を掘り下げることは極めて危険な営みだと考える。心理の解剖で命を縮めた作家は大勢いるのだ。むしろ、我々は自宅の居間を飛び出して、外の空気を大いに吸うべきで、心理より世界の風景をもっと注視したらよい。情感は大切にしながらも、行動に彩りを添えたらどうだろうか。
Posted by
- 1