チャパーエフと空虚 の商品レビュー
チャパーエフやピョートルは、ロシアのアネクドート(小話)ではお決まりの登場人物ということで、同じく日本の小話を魔改造したサイケデリック・コミック『真夜中の弥次さん喜多さん』が何度となくクロスオーバーした。 叡智と野蛮を併せ持った色彩は、クレムリンのように鮮烈で眩しい。雪雲に閉ざさ...
チャパーエフやピョートルは、ロシアのアネクドート(小話)ではお決まりの登場人物ということで、同じく日本の小話を魔改造したサイケデリック・コミック『真夜中の弥次さん喜多さん』が何度となくクロスオーバーした。 叡智と野蛮を併せ持った色彩は、クレムリンのように鮮烈で眩しい。雪雲に閉ざされたロシアのイメージが大いに覆された。
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既存のイメージを連結させながら、自然発生的に綴られる禅問答のようなやりとりが延々と続く。それに飽きないのは、不意に現れる奇怪な、しばしばパロディックなオブジェクトの存在であったり、おそらく作者が飽きた瞬間に放棄される状況の変化などがあるからだ。 チャパーエフというのは実在した人...
既存のイメージを連結させながら、自然発生的に綴られる禅問答のようなやりとりが延々と続く。それに飽きないのは、不意に現れる奇怪な、しばしばパロディックなオブジェクトの存在であったり、おそらく作者が飽きた瞬間に放棄される状況の変化などがあるからだ。 チャパーエフというのは実在した人物だそうだ。それどころか、ピョートルやアンナ、その他の重要な登場人物も、人々の間で語られたり、アネクドートとして定着していたりするものらしい。つまりペレーヴィンはロシアに用意された整った材料を使って、明確な方法論をもって小説を書いたということだ。実に面白い仕事だっただろうと思われる。 そういう土壌があるロシアという土地が、この一面だけとってみれば羨ましくもある。
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一般的に「ポストモダン」「哲学的」と紹介される場合、読者の購買欲をそそるとは思えない。本書はまさにその罠にはまって遠ざけられる一冊ではないかと思われる。惜しい。 ポストモダン云々というよりも、ロシア的混沌を映し出す様が圧巻。散漫にならず、意外なほど章と章の連環が小気味よく、全体...
一般的に「ポストモダン」「哲学的」と紹介される場合、読者の購買欲をそそるとは思えない。本書はまさにその罠にはまって遠ざけられる一冊ではないかと思われる。惜しい。 ポストモダン云々というよりも、ロシア的混沌を映し出す様が圧巻。散漫にならず、意外なほど章と章の連環が小気味よく、全体を通しても伏線を巧みに回収している。小説の技巧的には丁寧なのに、全体を俯瞰したときには胸焼けするほどロシア的混沌にやられる。
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ボルヘスとマルケス好きならおすすめ。ロシアにまだまだこんな作家が!!色々な読み方が出来るし、どんな話?と言われても説明しづらいけど(笑)ただある程度哲学の素養がないとつらいのかもしれない。そして笑える。トンデモ小説と言ってもいいくらい!
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私はかれこれ5年以上ロシア語と関わってきたが、数あるロシア語単語のなかでも"пустота"は大のお気に入りである。なぜか。なぜなら、この語は「空虚」なんていう深遠で哲学的な意味を持っているにもかかわらず、発音が「プスタター」と、まるで屁のようにまぬけだからで...
私はかれこれ5年以上ロシア語と関わってきたが、数あるロシア語単語のなかでも"пустота"は大のお気に入りである。なぜか。なぜなら、この語は「空虚」なんていう深遠で哲学的な意味を持っているにもかかわらず、発音が「プスタター」と、まるで屁のようにまぬけだからである。このギャップが大好きなのだ。 そして原題にこの「プスタター」(注:邦訳の本文中では、日本語転写の慣例で「プストタ」と表記されている)が含まれているのが本書(原題:Чапаев и Пустота チャパーエフ イ プスタター)。ということで、期待を胸に読み始めたのである。 物語の舞台は「2つ」ある。ロシア革命直後の1918年のロシアと、現代ロシアである。語り手は「ピョートル・空虚(プスタター)」という奇妙な名字の持ち主で、彼の語りの中で、夢とも現実ともつかない「2つ」の世界が入れ替わり立ち替わり現れる。ピョートル・空虚は、1918年の世界ではチャパーエフという赤軍の指揮官との奇妙な行軍を繰り広げ、現代ロシアの世界では精神病院の患者として他の入院患者の妄想に飲み込まれ(?)ながら生活している。この2つの世界は相互に関連している、ということが徐々に明かされ、最終的には大カタルシスへ向かう。 以上が、私がまとめられる精一杯のあらすじである。 上を読む限り、何か深刻で鬱々とし、難解な小説なのでは、と思われるかもしれない。確かに、ロシア文学特有の(いわばドストエフスキー的な)そういった雰囲気はベースにはあるが、本書の場合はそれを逆手にとるかのように絶妙に、ユーモラスでもあるのだ。そう、まさに私が単語「プスタター」に対して抱いていたイメージと、ぴったり重なるのである。 具体的にどういったところが、と聞かれても答えられないし、答えるべきでもないだろう。訳者の三浦氏も、巻末の解説では具体的な物語の説明については「知らない方が楽しめるようになっているので、未読の方は本文にお進みいただければ幸い」と匙を投げているわけだし。まずは、そう、読んでみましょう(笑)。その手のものに抵抗の無い読者であれば、ドラッグ的なイメージの連鎖に、ぐいぐいと引きつけられて読み進めてしまうと思う。 本書を読んだからといって、別に教養がつくわけでも、感動や生きる力を得られるわけでもない。読書にそういったものを求める人には向かない一冊かも。 じゃあ、お前は?ああ、私は満足ですよ。少なくとも「空虚(プスタター)」さんと少し仲良くなれた気がしますから。 (ちなみに、一番最初の英文の元ネタは、Simon&Garfunkle の名曲 The Sound of Silence の歌詞ね)
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ここであって、ここでない場所。夢であって、夢でない夢。自分という存在のあやしさに気付くことから湧き上がる問題は、多感な年代を過ごす者には誰にでも襲いかかる問題だろうけれど、それはまた、いつの間にか問題でなくなる(あるは問題であることを忘れてしまう)問題でもある。 それは、問い、...
ここであって、ここでない場所。夢であって、夢でない夢。自分という存在のあやしさに気付くことから湧き上がる問題は、多感な年代を過ごす者には誰にでも襲いかかる問題だろうけれど、それはまた、いつの間にか問題でなくなる(あるは問題であることを忘れてしまう)問題でもある。 それは、問い、に対して答えが与えられるからではなく、明確な答えが存在しないことが解ってしまうからであるのだが、問題が忘れ去られてしまうのは、問いだけを立て続けることが困難であることを端的に表している。そこを超えて行くとどうなるのか。ここに描かれているのは、そんな困難な問いをどこまでも追い続けていくと何が見えてくるのか、ということに対する一つの提示であるように思う。 但し、それはやっぱりそれは、答え、ではない。そもそも、ありとあらゆる答えというものは、たかだかplausibleであることがせいぜいなのであるから、この「自分という存在のあやしさ」についての答えだけが明確でないと声高に言うことでもないのかも知れないが、自らの存在の不確実性に目をつぶることができたとしても、他人という存在が実在のものであるのかどうか、という次の問いが既に見えている。それはとても厄介で、できれば避けて通りたい問題であり、問いをそもそも最初からなかったことにしてしまいたいという気持ちになったとしても仕方がないだろうとも思う。 例えば、誰しも一度は、他人の存在が自分の妄想ではないか、という疑問と向き合ったことがあるだろう。自分が認識している他人は(この際、そもそも全ての現実はそれが脳という空間の中で再構築されている像であるのだから実在は確認しようがない、という線での疑問はひとまず置くとしても)本当に自分の妄想ではないと言いきれるかどうか。そこで立ち止まってしまうと、あたかも真っ暗な空間の中で、わずかに自分の足元を照らすだけの懐中電灯を抱えて途方に暮れている存在であるように、自分が見えてくる。それはとてつもない恐怖と寄る辺なさを伴う感覚である。 それだけでも既に十分怖いのに、本書はその恐怖を更に凌駕する恐怖を読む者に突きつける。それは、自分の足元を照らしているものと、暗闇の中にあるものとの間はどれだけ地続きであるのか、と疑うことによって生じる恐怖である。それはエキサイティングであり、かつ、猛烈な敗北感にも苛まれる、恐怖である。 本書のラストで提示されるもの、それはそんな気分から読者を多少なりとも吸い出す光明のようにも見えるのだが、それは決して問題が問題でなくなったことを意味しない。恐怖はどこまでも続く。
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タイトルに惹かれたのと現代ロシア文学ということで読みました。読み始めたときのワクワク感からすると、あまりにしっちゃかめっちゃかな全体の内容、尻すぼみという感じが否定できない終わり方は残念でした。内モンゴルの謎も結局解明されず。とはいえ久しぶりに、物語の世界にのめり込むことができる...
タイトルに惹かれたのと現代ロシア文学ということで読みました。読み始めたときのワクワク感からすると、あまりにしっちゃかめっちゃかな全体の内容、尻すぼみという感じが否定できない終わり方は残念でした。内モンゴルの謎も結局解明されず。とはいえ久しぶりに、物語の世界にのめり込むことができるパワフルな小説に出会ったなという感じです。
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永劫回帰から永劫不回帰まで。 空想の間の現実、現実から吹き込まれるエピソード。 すべては精神病院の中。 こう書いてしまうと、あーその手のねって思われそうだけど、 「小説は読んでいる最中にしか存在しない」それを体現しているような小説。 ベタなオリエンタリズムもここまでやられると...
永劫回帰から永劫不回帰まで。 空想の間の現実、現実から吹き込まれるエピソード。 すべては精神病院の中。 こう書いてしまうと、あーその手のねって思われそうだけど、 「小説は読んでいる最中にしか存在しない」それを体現しているような小説。 ベタなオリエンタリズムもここまでやられると何もいえない。 これくらい骨のある小説、最近日本の新刊で読んでないなぁ。
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