直川智の島 の商品レビュー
琉球に渡る途中に嵐に逢い今の福建省辺に漂着、現地の農民に助けられ、現地にてサトウキビの製法を学び奄美大島に持ち帰った。 彼、直川智の知名度がどの程度かわからないですが、おそらく、私の周囲の人に彼の名を尋ねても上記の通り説明できる人はいないのではと思います。 そんな奄美の英雄とでも...
琉球に渡る途中に嵐に逢い今の福建省辺に漂着、現地の農民に助けられ、現地にてサトウキビの製法を学び奄美大島に持ち帰った。 彼、直川智の知名度がどの程度かわからないですが、おそらく、私の周囲の人に彼の名を尋ねても上記の通り説明できる人はいないのではと思います。 そんな奄美の英雄とでもいうべき"直川智"についての伝説を繙いた、マニアックな一冊。 かつて奄美大島は、黒糖を年貢として納める換糖上納令(1747年)が敷かれ、地に生えるすべての植物がサトウキビとなる"黒糖地獄"とでもいうべき時代がありました。 さらにその後、1830年に惣買入制が始まると、奄美の人々は飢えに苦しみ、毒の入ったソテツすらも毒抜きして食べるという時代が始まります。 1609年中国から数本のサトウキビを懐に忍ばせて繁殖させた直川智はそんな黒糖地獄を元凶であり、島民からすると「なんて余計なことをしてくれたのか」という話なわけですが、1880年 明治政府は、どこでどう名前を聞きつけたのか、300年近く前の人物である直川智に対して表彰と金100円を送ります。 そしてその翌年には、奄美大島の大和村で、直川智を祀る神社の建立が始まります。 今も残る開饒神社やネット検索でも読める直川智伝説から、現在、氏の情報を得ることは容易いですが、その存在にはいろいろな謎があります。 本書は、そんな直川智伝説に、様々な観点から疑問を投げかけ、その本性に迫る一冊となっています。 直川智の存在やその伝説は創作である可能性が高いことは知っていましたが、ツッコミどころまみれの伝説が、まずは全て"あるもの"として話を進めます。 例えば、直川智は、船で琉球に渡るのですが、どういう目的で渡ったのか、また、その船とはどういうもので、何人で行ったのかなど、徹底考察しています。 その過程では、専門的な話も登場し、奄美大島の地理や気候特性、歴史が、ある程度は解説付きで書かれます。 ただ、例えば、ノロだったり、普請だったり、常識的に知っていてもおかしくないレベルのことは当然として書かれるので、ある程度は知っている方向けの書ですね。 また、ネットで少し調べただけだとたどり着けない、直川智の祖先の家系図や奄美大島の歴史についても触れています。 作者は碩学な人物で、広く深い研究の結晶に触れた気がします。 単に、直川智について、奄美大島の黒糖について知るのみでなく、結意義な時間を得ることができる良書でした。
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