激辛書評で知る中国の政治・経済の虚実 の商品レビュー
『ワイルド・スワン』で脚光を浴びた張戎は,05年に夫と共著で,毛沢東の伝記『マオ』を出した。しかしこれはいわゆるトンデモ本らしい。矢吹晋によれば,事実を曲げてまで毛沢東を極端に悪魔化した悪書である。何百人もの関係者への聞き取り,厖大な史料の引用は,宣伝のための虚仮威しにすぎない。...
『ワイルド・スワン』で脚光を浴びた張戎は,05年に夫と共著で,毛沢東の伝記『マオ』を出した。しかしこれはいわゆるトンデモ本らしい。矢吹晋によれば,事実を曲げてまで毛沢東を極端に悪魔化した悪書である。何百人もの関係者への聞き取り,厖大な史料の引用は,宣伝のための虚仮威しにすぎない。出版当時,「中国近現代史を書き換える衝撃の一冊」などと新聞書評で「中国の専門家」は囃したが,「マオ」が描く新事実は到底実証研究に耐えない。何しろ張作霖爆殺の犯人をソ連にしているくらいだ。張戎も夫も歴史叙述の訓練を受けておらず,史料批判は杜撰きわまりない。 文革であんなひどい目に遭ったのだから,張戎が毛沢東を憎むのも仕方ない,と私の妻は同情的だ。確かにそうかもしれない。歴史というものは,距離をおいて眺めなければ,本当には記述できない。歴史の被害者が歴史を書くのは非常に難しい。『ワイルド・スワン』は個人的な体験をもとにした家族史であり,優れた作品だ。しかし,これで張戎が有名になったばかりに『マオ』が読まれ,毛沢東に関する誤解が広く流布してしまったことは,残念なことである。
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