朱唇 の商品レビュー
私自身は、女は基本、売った買ったの間柄という心が付き纏っている。 別に女性を低く見ているわけではない。 むしろそういうことを自分に一番最初に向けてしまうことに、 やりきれなさと怒りがある。 いつの間に、そういう思いを重ねないで、愛情を見なくなったのか。 私自身は春をひさいだ事...
私自身は、女は基本、売った買ったの間柄という心が付き纏っている。 別に女性を低く見ているわけではない。 むしろそういうことを自分に一番最初に向けてしまうことに、 やりきれなさと怒りがある。 いつの間に、そういう思いを重ねないで、愛情を見なくなったのか。 私自身は春をひさいだ事も、媚態と言葉でお金を稼いだこともない。 しかし、誰かと普通に愛を交わしていながら、共に暮らせばやはり 面倒を見た見られたと、言い合ったこともあって、金で買われた女たちと 違うと言いながら、心の中になにか支えるものがなければ、 男と関わるなんてつらくて出来ないな、と思うことが多い。 だから、だろうか。遊女や妓女たちの物語を読むのが好きだ。 はためく紅い酒旗。染み入る柳の緑。喧騒と脂粉の香り。 金の簪に朱い唇。白皙の肌。 ぎりぎりの心のやりとり。高い矜持。男と女の張り詰めた空気。 そんな世界に遊んで。ひと時美しい女に成り代わる時間が好きだ。 ごく普通に生きていても、愛に疲れたり傷つくこともある。 栄華も一睡の夢のように消えることもある。 でもそれなら。 そんな思いをするなら、稀代の美姫として、という方が まだ心慰められるではないか。 中国小説の名手には、藤水名子さんなどもおられるが 彼女の小説が、活劇の色が濃いことに比べると、 井上さんのこのお作は、しっとりとした冷たい絹のような 光沢と品が感じられる。 作品の風合いが静かで、 微風と夜の闇、紅灯の揺れる様が見えてくるのだ。 もっと他の作品も読んでみたい。 既にたくさんの作品が上梓されているようなので、 丹念に読む楽しみができた。 この分野はなかなか扱う作家さんが少ない気がするので 多作でなくていいので、長く良い作品を書いて活躍して頂きたい。 あやういもの・悲しいものは、どうしてこう私を捉えて離さないのか。 不幸が似合うわけでもあるまいに。
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廓の一室で、遊女が客に尋ねる。 「お家は、なにをなさってますの」 これが杉浦日向子の『二つ枕』なら、 客 「わっちは日本橋で」 遊女「にほん橋で」 客 「寒中に心太(ところてん)売りとはすごかろう。」 遊女「許しイせん!」と枕を振りかぶる。 客 「コレサ後生だ。云おう云おう。...
廓の一室で、遊女が客に尋ねる。 「お家は、なにをなさってますの」 これが杉浦日向子の『二つ枕』なら、 客 「わっちは日本橋で」 遊女「にほん橋で」 客 「寒中に心太(ところてん)売りとはすごかろう。」 遊女「許しイせん!」と枕を振りかぶる。 客 「コレサ後生だ。云おう云おう。せともの問屋サ」 となるのだが(「雪野」)、ここは北宋の開封、 客 「代々、東京(とうけい)で天子をしておる」 皇帝なのである。(「歩歩金蓮」) 遊郭を舞台にした短編集、というと杉浦日向子を思い出さないわけにはいかないのだけれども、こちらは中国の話なので王朝の崩壊あり異民族の侵入ありと、いささか騒然とした背景の作品が混じる。各編で語られる遊女たちの物語も、けっしてハッピーエンドばかりではない。 それでも話が陰惨にならないのは、つまるところ彼女たちが自分の意思を貫く女性ばかりだからなのだろうか。 今回はじめてこの作家の作品を読んだのだが、近代以前の中国が舞台とはいえこれほどカタカナを排した日本語が可能なのだということにも驚かされた。 2010/07/14 記
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水楼にたなびく管弦の音。風にこぼれる花の繚乱。ままならない身の上の妓女の恋。 中国の妓女もの。日本とはちがって出歩いたりと少し自由な様子。風流天子と白楽天が出てきたお話が特に好きでした。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
水楼にたなびく管弦の音。風にこぼれる花の繚乱。紅い唇からこぼれだす真実の想い--。ままならない身の上で、艶やかに磨き上げられた妓女の恋を、中国歴史小説の俊才が鮮やかに描く傑作短篇集。 身を売る妓女の強さも弱さも、不幸の中身も、少しの幸せも、この1冊に全て込められている。 私は「背心」が一番ぐっと迫るものがあって好きです。一番救いのない話ではあったけど・・。
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無口で気位が高く、そしてとても美しかった月生。彼女が最後に口にした言葉を知るのは、自らのくちびるのみ・・・「朱唇」 禍水(わざわいを招く女)と知りつつ琴心を救った男。自分を受け入れなかった男を裏切った琴心だったが、裏切ったのは女の方だけだったのか?「背心」 気性は荒いが正義感...
無口で気位が高く、そしてとても美しかった月生。彼女が最後に口にした言葉を知るのは、自らのくちびるのみ・・・「朱唇」 禍水(わざわいを招く女)と知りつつ琴心を救った男。自分を受け入れなかった男を裏切った琴心だったが、裏切ったのは女の方だけだったのか?「背心」 気性は荒いが正義感にあふれる牙娘。彼女の上客・李生の正体は?ラストの牙娘の潔さに、思わず美事!とひざを打つ「牙娘」 湘連の知恵が街の人々を救った(まるで一休さんのとんちのようだわ)「玉面」 全てを失った皇帝に付き従った李師師「歩歩金連」 美しく才能があり、気ままに生きてきた樂人・張魁。彼の心に巣くっていた一つの悲しみとは?「断腸」 川べりで琵琶を弾く女の噂を聞いた司馬左軍(実は白楽天)。彼の一夜の邂逅「名手」 の7編。 中島千波氏の「黒牡丹」の表紙が、ばっちりイメージにあっていてよかったな。
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帯には 「中国歴史小説の俊才が鮮やかに描く傑作短編集」 とあります。 「描く」という表現どおりに、まさに美しい妓女が見えてくるような、 そこに吹く風や音が聴こえてくるような気がする、 そんな素敵な表現力があって私は好きです。
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牡丹の花が似合う夢のような中国時代小説。河に並んで妓楼が立ち並び、纏足(金蓮とも呼ぶそうだ)の美しい姑娘たちが御簾のなかから表われる。中国の音楽の妖艶さ、牡丹の花のように艶やかでこぼれそうな色香。でもはっきりいってその美学、私にはわからない・・。
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